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第六章 白亜の塔と、漂白されし者(中編)

中編です!

続けてどうぞ!

 円形の広間に、黄金と青白の閃光が激しく交錯する。

「おおおおおおおっ!!」

 シオンの怒号と共に振り下ろされたオリジン・シリンダーの一撃を、ユーゴは白金の長槍の柄で軽々と弾き飛ばした。五十キロを超える大剣の遠心力と、シオンの絶望から来る怒り。そのすべてが乗ったはずの斬撃が、まるで木の枝を払うかのようにいとも容易く逸らされる。

「……対象の攻撃パターン、力任せの単調な軌道のみ。演算プロトコル、フェーズ2へ移行します」

 シオンの体勢が崩れたその一瞬の隙を、ユーゴの冷酷な槍が見逃すはずがなかった。

 無駄な予備動作を一切省いた、ただ最短距離で命を奪うための刺突。

 ガキンッ!! という甲高い金属音と共に、槍の穂先がシオンの肩当てを砕き、肉を浅く抉る。

「ぐっ……!」

「シオン!」

 ルミナが悲鳴を上げるが、シオンは痛みに顔を歪めながらも、強引に距離を詰めて大剣を横薙ぎに振るった。

 しかし、そこにすでにユーゴの姿はない。

「遅いですね。感情というノイズに支配されているから、反応が遅れるのです」

 背後からの無機質な声。振り返る間もなく、シオンの背中に強烈な蹴りが叩き込まれ、大理石の床を無様に転がる。

 かつてのユーゴなら、絶対に追撃を仕掛けなかった場面だ。彼は優しすぎたから、訓練でも常に相手が立ち上がるのを待っていた。「剣の交わりは対話だ」と、生真面目な顔で語っていた親友。

 だが、今目の前にいる『白亜の兵器』に、対話の意志など存在しない。

「対象の体勢崩壊を確認。追撃し、排除します」

 ユーゴの長槍の穂先に、人々から奪ったメモリアの青白い光が異常な密度で圧縮されていく。

 システムが弾き出した最も効率的な殺戮の光。

「させないっ……!」

 立ち上がれないシオンの前に、ルミナが飛び出した。彼女の両手から黄金色の光が溢れ、シオンを守るための障壁が展開される。

「ルミナ、退け! そいつの攻撃は…」

「非戦闘員。しかし魔力波形に特異性を確認。……障害物として一括処理します」

 ユーゴの槍から放たれた極太の魔力線が、ルミナの光の障壁に激突する。

 教会の莫大な『消費』の力と、ルミナの『生み出す』力。拮抗したのはほんの数秒だった。

 パァンッ、とガラスが砕けるような音を立てて障壁が破られ、ルミナの小さな体が後方へと吹き飛ばされる。

「ルミナァァッ!!」

 シオンは激痛の走る脚を無理やり叩き起こし、ルミナの体を抱き留めた。

「……ごめ、んね、シオン。私……」

「喋るな! 大丈夫だ、傷は深くない……」

 シオンはルミナを床にそっと寝かせ、再びユーゴと向き合った。

 親友の顔をした処刑人は、表情筋を微塵も動かすことなく、ただ次の刺突の軌道を計算するように槍を構え直している。

 その冷たい姿を見て、シオンの心に渦巻いていた「もしかしたら」という一縷の望みが、完全に砕け散った。

(ああ……本当に、お前はもう、どこにもいないんだな)

 大渓谷で、自分の胸ぐらを掴んで泣き叫んでいた親友。

 自分の力でシオンやルミナを守れるようにと、剣と盾を取った心優しかった親友。

 その心は、記憶は、感情は。あの狂った教会の連中によって一滴残らず抜き取られ、既に殺されてしまったのだ。

「……なら、俺がやらなきゃな」

 シオンは深く息を吐き、オリジン・シリンダーを両手で強く握り直した。

 もはや怒りも、悲しみも、表には出てこなかった。ただ、極限まで研ぎ澄まされた冷たく熱い決意だけが、シオンの全身を包み込んでいた。

 かつて親友だった抜け殻を、これ以上、誰かを傷つけるための道具になんてさせない。

 自分がこの手で、ユーゴという人間の尊厳に、引導を渡す。

 シオンのその決意に呼応するように、大剣の刀身が爆発的な黄金の光を放ち始めた。

 ルミナの力がなくても、シオン自身の意志がシステムの限界値を超えて剣に流れ込んでいく。

「……対象の魔力出力、再上昇。演算限界を突破。理解不能なエネルギーの増幅を確認」

 ユーゴの瞳の奥で、機械的なセンサーがチカチカと点滅する。

「危険領域と判定。リミッターを解除し、最大出力で殲滅します」

 ユーゴの全身から、教会の塔そのものから供給される莫大なメモリアの光が噴出した。

 それは、数千、数万の人々の記憶や感情を焼き尽くすことで得られる、絶望的なまでの破壊の力。白金の長槍が、青白い光の奔流となってユーゴを包み込む。

「これで終わりです。神の御前より消え去りなさい」

 ユーゴが床を蹴った。

 音すらも置き去りにする、光そのもののような神速の突撃。槍の先端に圧縮された魔力は、触れるものすべてを消滅させるほどの威力を秘めていた。

 だが、シオンは一歩も引かなかった。

 目を逸らすことなく、ただ真っ直ぐに、迫り来る親友の姿を見据える。

「……俺たちの思い出は、こんな冷たい光なんかじゃない!!」

 シオンは右足で大理石の床を粉砕するほど強く踏み込み、限界まで振り被った大剣を、渾身の力で正面から振り下ろした。

 青白い『過去を燃やす力』と、黄金の『今を生きる意志』。

 二つの極大の力が、広間の中央で真正面から激突した。

 ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

 中枢塔の上層全体が、大地震に直面したかのように激しく揺れ動いた。

 力の余波だけで周囲の柱がへし折れ、天井の装飾が粉々に砕け散る。

「……出力不足。エネルギー供給が、追いつきませ……」

 激突の最中、ユーゴの口からノイズまじりの機械音が漏れる。

 教会のシステムは、シオンの「想いの重さ」を計算できなかった。

 自分の手を血に染めてでも、親友の抜け殻を終わらせるという、シオンの血を吐くような覚悟の重さを。

「ウォォォォォォォォォォッ!!!」

 シオンの咆哮と共に、黄金の光が、青白い光を完全に飲み込んだ。

 そして。

 パァンッ!!

 ユーゴの持つ白金の長槍が、根本から無残に砕け散る。

 武器を失い、完全に無防備となったユーゴの白銀の装甲に、シオンの黄金の大剣が、容赦なく深々と叩き込まれた。

「ガ、アァァ…………ッ」

 致命の一撃。

 システムに制御されていたユーゴの体が、糸が切れた操り人形のように力なく宙を舞い、冷たい大理石の床へと叩きつけられる。

 そして、二度と動くことはなかった。

後編へ続きます!

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