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第六章 白亜の塔と、漂白されし者(後編)

いよいよ後編です!

 舞い散る粉塵の中、広間には重苦しい静寂が落ちていた。

 先程までの激しい魔力の嵐が嘘のように消え去り、ただ、シオンの荒い息遣いだけが冷たい空気に響いている。

 シオンはゆっくりと大剣を下ろし、引きずるような足取りで、砕け散った大理石の床の中央へと歩み寄った。

 そこには、白銀の装甲を砕かれたユーゴが、仰向けに倒れてピクリとも動かずに横たわっている。

 装甲の隙間から不気味に脈打っていた青白いメモリアの光は、すでに完全に消え失せていた。彼を突き動かしていた教会のシステムが、完全に沈黙した証だった。

「……」

 シオンはユーゴの傍らに力なく膝をつき、その顔を覗き込んだ。

 無機質で冷徹な処刑人の面影は、もうどこにもない。システムによる強制的な支配から解放された親友の顔は、苦しみも迷いもなく、ただ疲れ果てて深く眠っているかのように穏やかだった。

「……終わったぞ、ユーゴ」

 シオンの口から、掠れた声が漏れた。

 怒りでも、達成感でもない。ただ、取り返しのつかない喪失感が、どろどろとした鉛のようにシオンの胸の奥底を満たしていく。

『俺とお前で、一緒にこの国の正義になるんだ』

 いつか陽だまりの中で、泥だらけになりながら笑い合った少年時代の記憶が脳裏をよぎる。

 だが結果的に、ユーゴはこの国に心を奪われ、からっぽの兵器に成り果てた。もし自分があの大渓谷で、彼と和解していれば。もし自分が、もっと早くこの狂った世界に気づいていれば。

「……っ、あぁ……」

 シオンはユーゴの冷たくなった手を両手で固く握りしめ、顔を伏せた。

 彼を苦しめていた鎖を、自分の手で断ち切った。これ以上、教会の道具として穢されることはない。頭では分かっていても、己の手を染めた親友の血の感触が、シオンの心を無惨に引き裂いていた。

 大粒の涙が、シオンの頬を伝って冷たい床へとこぼれ落ちる。

「シオン……」

 背後から、そっと背中に温かいものが触れた。

 痛む体を引きずりながら歩み寄ってきたルミナが、泣き崩れるシオンの背中を、小さな両手で力強く抱きしめていた。

 彼女の目にもまた、止めどない涙が溢れていた。からっぽだったはずの心に、シオンの悲しみが流れ込み、共に痛みを分かち合っているように。

「ごめんね……。私が、……全部思い出せていれば……」

「お前のせいじゃない……」

 シオンはルミナの手を重ねるように握り、首を振った。

「こいつをこんな目に遭わせたのは、人の心を燃料にして平和を気取る、あの狂った教会の連中だ。……俺は、もう迷わない」

 シオンは袖で乱暴に涙を拭い、ユーゴの手をそっと胸元に組ませてやった。

「少しだけ待ってろ、ユーゴ。……お前が信じたかった『本当の正義』を、俺が必ず取り戻してくるから」

 静かな、だが決して揺らぐことのない決意の誓い。

 シオンがゆっくりと立ち上がり、大剣を握り直したその時だった。

 ゴゴゴゴゴゴォォォォ……ッ。

 円形の広間のさらに奥。巨大な壁面を覆っていた白亜の装飾が左右に割れ、重々しい駆動音と共に、隠されていた最上階へと続く大階段が姿を現した。

 階段の先からは、今まで戦ってきた白の騎士やユーゴの力すらも赤子のように思えるほどの、おぞましく、そして底知れぬほど強大なメモリアの気配が流れ込んでくる。

「……この上に、すべての元凶がいる」

 シオンは黄金の光を微かに帯び始めた大剣を構え、階段の奥の深い闇を睨みつけた。

 人々の記憶を奪い、親友の心を漂白し、この歪んだ平和を統治している絶対的な存在。

 中枢塔の頂に鎮座する絶対的な支配者が、ついにその扉を開いたのだ。

「行くぞ、ルミナ。下で戦ってくれている師匠やメリルたちのためにも……。これ以上、誰の明日も奪わせない」

「うん……!」

 ルミナは力強く頷き、シオンの隣に並び立った。

 冷たい大理石の床で眠る親友に背を向け、二人は塔の最深部へと続く大階段を上り始める。

 悲しみを乗り越え、託された意志を力に変えて。

 世界の真実を打ち砕く、戦いの幕が上がろうとしていた。

第六章の前、中、後編を、最後までお読みいただきありがとうございました。

親友ユーゴとの決着。シオンにとっても、筆者である私自身にとっても、本当に辛く苦しい展開になりました。

かつて正義を誓い合った親友が心を漂白され、ただの兵器になってしまう。そしてその彼を、誰かに穢される前に自らの手で終わらせる。シオンが流した涙の重さは、計り知れませんね。

シオンとルミナは、ここからすべての元凶の元へ向かいます。この狂った世界を支配する絶対的な存在に対して、どう立ち向かっていくのか。ぜひご期待ください!


次章は、下層に残った3人の戦いに焦点をあてて展開していきます。

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