第五章 白銀の旧工房と、原初の記憶(後編)
今回の後編では、旧工房の最深部で眠る真の魔剣がいよいよその姿を現します。
冷たいシステムと計算を、不器用な主人公の「熱い感情」が正面から粉砕する逆転劇!
ぜひ、スカッとする熱い展開をお楽しみください。
深い静寂に包まれた中央室。自分が教会の狂気の引き金だったという残酷な真実に、ルミナは床にへたり込み、両手で顔を覆って声を殺して泣いていた。
「ルミナ、顔を上げろ」
シオンは折れた大剣の残骸を床に置き、片膝をついて彼女の目線に合わせた。そして、震えるルミナの小さな両肩を、不器用で大きな手でしっかりと包み込む。
「でも……私がいたから、教会は人の心を奪う兵器を作った……。ケスラーさんが捕まったのも、ユーゴさんと離ればなれになっちゃったのも、全部……私が……っ」
「違う!!」
シオンの力強い声が、冷たい工房内に真っ直ぐに響いた。ルミナがビクッと肩を震わせ、涙で濡れた瞳を上げる。
「お前の力は、誰かを傷つけるためのものじゃない。……思い出せ。お前はただ、転んで血を流してる俺を助けようとしてくれただけだろ」
「シオン……」
「教会の連中が勝手に悪用しただけで、お前のその温かい光は、昔から俺たちを救うためのものだった。だから……自分を責めるな」
シオンはルミナの頭を不器用に撫でると、力強く立ち上がった。
「先生は、俺かユーゴのどっちかが、お前を守る騎士になるって信じてくれてた。……ユーゴがだめなら、俺がアイツの分までお前を守る。教会の過ちも狂気も、俺が全部叩き斬ってやる」
その言葉に、ルミナの瞳から再び涙が溢れた。だがそれは、絶望の涙ではなかった。
ルミナは袖で乱暴に涙を拭うと、シオンの大きな手に自分の小さな手を重ね、しっかりと頷いた。
「奥の部屋に、強い魔力の反応があるわ」
通路の警戒をしていたメリルが、静かに声をかける。
レクターが顎で先を促し、一行は工房のさらに深奥へと足を踏み入れた。
そこは、自然の洞窟を利用した広大な空間だった。
空間の中央、氷の結晶で覆われた台座の上に、それは静かに安置されていた。
漆黒の鋼で打たれた、身の丈を越える大剣。
無骨なパイプや剥き出しの歯車はなく、流線型の刀身の中央には、黄金色に輝くシリンダーが完璧な美しさで組み込まれている。ただそこにあるだけで、周囲の空気を震わせるような圧倒的な存在感。
「あれが……先生の遺してくれた、真の魔剣『オリジン・シリンダー』……」
シオンは魅入られたように台座へと歩み寄り、震える両手でその柄を力強く握りしめた。
その瞬間。
「……!」
シオンは目を見開いた。
教会の騎士が使っていた武器のように、無理やり命を吸い取られるような不快な冷たさは一切ない。
柄から伝わってくるのは、温かく、力強い鼓動。シオンの胸の奥にある「ルミナを守りたい」「絶対に負けられない」という熱い感情の波長を剣が読み取り、それに応えるようにシリンダーが黄金色の光を脈打たせ始めたのだ。
(そうか……。記憶や感情を『消費』するんじゃない。俺の想いに『共鳴』して、力に変えてるんだ……!)
五十キロ近い質量があるはずの塊が、まるで自分の腕の延長であるかのように軽く感じる。
シオンがゆっくりと大剣を引き抜いた時、背後から温かい手が彼の背中に添えられた。
ルミナだった。
彼女の手から溢れ出した黄金色の光が、オリジン・シリンダーの刀身へと吸い込まれるように流れ込み、剣の輝きと完全に同調していく。
「……先生が言ってた『原点の力』。お前と一緒なら、この剣は限界を超えられる」
シオンはそう確信し、新たな相棒を肩に担ぎ上げた。
ズガァァァァァァァンッ!!!
突如、旧工房全体を激震が襲った。
入り口の分厚い鉛の隔壁が、ひしゃげた鉄塊となって洞窟内へと吹き飛んでくる。
もうもうと立ち込める粉塵の中から、白銀の装甲を纏った大男、教会の『白の騎士』が、青白いメモリアの光を放つ戦斧を引きずりながら姿を現した。
「……隔壁の突破を確認。対象の殲滅を再開する」
機械的な音声と共に、白の騎士の視覚センサーがシオンを捉える。
「シオン!」
「アタシたちが援護する!」
メリルとレクターが即座に武器を構えようとするが、シオンは片手でそれを制した。
「手出しは無用だ。……アイツは、俺一人でやる」
シオンはオリジン・シリンダーを中段に構え、ゆっくりと白の騎士へと歩み寄る。
「計算出力、脅威度ゼロ。武装の変更を確認したが、システムを凌駕する魔力波形は検知されない。……無意味な抵抗だ」
白の騎士が雪上を滑るように肉薄し、先ほどシオンの大剣をへし折った、絶死の戦斧を真横に薙ぎ払う。
だが、シオンは避けない。
「無意味かどうか……その身で味わえ!!」
シオンは一切の防御を捨て、渾身の力でオリジン・シリンダーを振り抜いた。
戦斧と大剣が激突する。
ガガガガガガガガガッ!!
「……対象の出力、異常上昇。魔力波形の計算が合わない。なんだ、これは……」
白の騎士の兜の奥から、初めて「困惑」に似た機械音が漏れた。
白の騎士の戦斧は、一定の抽出されたメモリアを消費し続ける「冷たいシステム」だ。
しかし、シオンの剣は違う。激突し、鍔迫り合いの中で「絶対にこいつを叩き伏せる」というシオンの感情が高ぶれば高ぶるほど、オリジン・シリンダーの黄金の光は爆発的に膨れ上がり、無限に出力を跳ね上げていく。
『……警告。対象の出力限界を突破。エラー。システムによる力学計算が不可能。エラー、エラー……!』
「理屈で測れるもんかよ……! 俺の……俺たちの『今』を生きる意志を!!」
シオンが咆哮を上げた瞬間、オリジン・シリンダーから眩い黄金の力場が爆発した。
教会の兵器が纏っていた青白いメモリアの光が、いとも容易く掻き消される。
「ウ、オオオオオオオッ!!」
シオンの剛剣が戦斧を真っ二つに叩き割り、そのままの勢いで白の騎士の白銀の装甲を、一刀両断した。
ガァンッ……!!
けたたましい破壊音と共に、無敵を誇った白の騎士の巨体が崩れ落ち、沈黙する。
システムの冷たい計算が、人間の熱い感情に完全敗北した瞬間だった。
「……ふぅっ」
シオンは大きく息を吐き、オリジン・シリンダーを静かに下ろした。
刃こぼれ一つない、完璧な美しい刀身。今までどれだけ力を込めても決して思い通りにならなかった「不器用な自分」のすべてを、この剣は肯定し、力に変えてくれた。
「やった……! シオン、すごい!」
ルミナが駆け寄り、満面の笑みでシオンの手を取る。
メリルも双剣を納め、呆れたように笑いながら歩み寄ってきた。
「アンタのその馬鹿力に、最高の武器が合わさっちゃったわね。これなら、教会の連中とも正面からやり合えるわ」
「……ああ。ケスラーの最高の傑作だ」
レクターも静かに頷き、破壊された白の騎士の残骸を見下ろした。
「だが、これで教会も完全に悟ったはずだ。我々が真の対抗手段を手に入れたことを。次からは、さらに過酷な戦いになるぞ」
「望むところだ」
シオンは黄金に輝く大剣を背負い直し、力強い眼差しで仲間たちを見た。
「先生の想いも、奪われた人たちの記憶も、これ以上奴らの好きにはさせない。……ルミナが泣かなくていい世界を、俺たちが取り戻すんだ」
冷たい雪山に閉ざされた旧工房。
しかし、一行の胸には確かな炎が灯っていた。
教会のシステムを打ち破る「真の魔剣」を手にした反逆者たちは、すべての元凶が待つ場所、中枢塔がそびえ立つ王都へと、今度こそ迷いなき一歩を踏み出した。
折れた試作品からの、真の魔剣『オリジン・シリンダー』抜刀! 王道ファンタジーにおける、主人公が真の武器を手にする大逆転劇を、これでもかと熱く詰め込んでみました。
絶対に守る。という熱い感情と共鳴して無限に力を引き上げる最高の相棒です。理屈や計算ばかりの白の騎士を、想いの力で真正面から叩き割る爽快感を感じていただけていたら嬉しいです!
真の力を手にしたシオンたちは、いよいよ教会の本拠地である王都へと反転攻勢に出ます。
次章からの激闘もぜひお楽しみに!




