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彼が好きだ

グレストルに来て十日以上が経った。


あだしの旦那様は毎日忙しく動いている。


魔物を簡単に倒す力があると思えば、商人として店で商才をあだしに披露してくれた。


今日は錬金術ギルドに行くと行って驚いた。彼は錬金術も使えるのだとか。


村では家の修理をしてたし、できないことは無いのかもしれない。


錬金術ギルドで依頼を受けた彼は国境で何かあったのだと話してくれた。


怖い。


そう思った。


魔物には会話ができる知能はない。


だから自分の命を守るために、または食べるために倒すのは普通のことだと思う。今でもそう思っている。


でも人間は口があり会話できる。それに倒しても食料にならないのに戦いが起きる。


まだ詳細不明とは言っていたが、あだしも、多分みんなも、旦那様も感づいてる。


隣国、サウスハード王国から攻撃が来たのだと。


土地が痩せていて国土の半分は岩の露出した土地、さらには乾燥が激しく作物が育ちにくいと話で聞いたことがある。


魔術師が多く戦力は高い。そう子どもの頃から聞かされてきた。いつかは攻めてくるのではないかと。


旦那様が錬金術を使うからと宿に戻ってきた。


宿に戻っても戦争が頭から離れない。


今、どんな状況だろうか。本当にここまで来ないだろうか。勝てる見込みは? 規模はどれぐらい? こちらの被害は? 攻撃があってからどれぐらいの時間が経ったのか。今はどこまで来てるだろう。戦争で食料が無くなるかもしれない。逃げる準備をしたほうがいいのではないか? みんなが同じように考えてたら先に動いたほうが有利に……。


座っていた私の肩が突然つかまれた。



「大丈夫か?」



そこには、いつもの優しそうな旦那様の顔があった。


普段は兜に隠れてて宿の中でしか見られない顔。今は困ったような顔をしている。



「あの……逃げる準備を、したほうが……いいんじゃないかなって。なんだか不安になっちまって。大丈夫かな?」



顔を見ているだけで不安が少しずつ消えていく。すごく不思議だ。


それでも言ったほうが……直接あだしの思った疑問をぶつけても彼なら受け止めてくれるんじゃないかと、そう思った。


「そうか」って一言。そして抱きしめられていた。



「大丈夫。何かあっても俺がどうにかする」



守るんじゃないんだな。彼なら守る必要もなくどうにかしちまうんだ。不思議とそう感じてしまった。



「そうだな。逃げたいなら逃げよう。別にこの街にも国にもこだわる必要はないんだからな。不安なら俺に言ってくれ。どこへでも行くぞ。どこに行く? 遠くが良いかもしれないな。そうだ美味しいものを食べに行くのも良いな、美味しいもの」


「もう大丈夫。安心した」



あだしが何も反応しなかったからか、慌てたように早口で話す彼をかわいいと思う。さっきまで準備していた錬金術の依頼も放棄したのか、部屋の片付けまでし始める勢いだった。


不安はもうどこにもない。


あだしは彼が好きだ。

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