結婚! …………え?
さあ、村人の依頼ラッシュは終わった!
今日でもう帰れる!
帰りは歩きだ!
「鎧の坊っちゃんありがとうね」
寝床を直してあげた虫人の老婆が昆虫のような手で何かを差し出している。
編み込んだカゴに入れられた沢山の野菜だ。
最後まで名前は覚えてもらえなかったな。そんなに難しい名前だろうか。別にいいけど。
「ああ、ありがとう」
受け取ってアイテムバッグへとしまいこむ。
「これ、やる」
村人がゾロゾロ集まってきた。おうおう、なんだこりゃ。
みんなの手には編み込まれたカゴと沢山の野菜。
いやいや、アイテムバッグがあるからいいものの、普通のハンターに渡す量じゃないぞ?
中には酒を持ってきているやつもいる。これは大変ありがたい。
「助かった……」
「そ、村長!」
村長までお出ましだ。普通に動けるのかこの人。
声は弱々しいが、足取りはしっかりしている。
話したのはここに来たときだけだから、俺の中でかなり他人感が強い。
「その、お見苦しいものを昨日は見せてしまって申し訳ねぇです」
「んん?」
村長の方を向いているとコロンがいつの間にか隣りにきて謝っていた。
そう、昨日。
錬金術で適当に低級疲労回復薬を作ったからコロンに渡しに行ったんだ。
鎧を全て外した状態で、ピンクがかった肌と頭の耳以外は人間の顔だった。人間よりの獣人さんだ。
それよりなにより驚いたのは格好だ。布1枚だけしか装備していなかったのだ。大事な部分は隠れているが、薄い布1枚では目のやり場に困ってどうしようかと考えてしまった。
人に会うときは胴部分だけでも鎧を装備してくれ!
「あ、いや、全然……キレイな、というか良い感じだった……?」
何を言っているんだ俺は。思いだすな、落ち着け。深呼吸だ。
女の体を見ておいて何が良い感じだ。気持ち悪い。
穴はないか! 穴があったら入りたい! あ、俺が埋めたんだった。
「キレイ、ですか? このあだしが?」
掘り下げるな恥ずかしい。流してくれ頼むから。
無理無理。なんて言えばいいんだよこれ。
「まあ、そう、思った」
カ、タ、コ、ト! 話題を誰か変えてくれ! こういう場合に使えるチート能力ないのか!?
ロールプレイを思い出せ! 俺は高圧的な強い旅人なんだ!
「……決めた。あだし結婚する」
「あ゛……ん? え? ん?」
「コロン、鎧の兄さんと結婚すんのか?」
「は!?」
「そうする! ここで逃しちゃ一生こんないい人は現れねぇ!」
おいおいおいおい。まてまて。どうしてそうなった。どういうルートでそうなる。そうはならんだろう。
まだ何も始まってないし、何も起きてない。
結婚? 結婚ってなんですか? 誰か俺に教えてくれ!
「いや、ちょっと、結婚とかは……その、どうだろうか。なんだろうか。どういう意味なのかとかそういう――」
「鎧の兄さん、結婚っつったら子供作るんだよ」
いきなり子供を!? いやそりゃゆくゆくは作る事になるんだろうけど……違う違う! そんなことを聞きたいわけじゃない!
「結婚をいきなりは、その、どうだろうという話をだね」
「あだしは構わねぇ」
コロンはもう敬語でも無くなっちゃった。それはまあいいんだけども。
拍手に包まれる。既成事実を村全体で作られてそうで怖い。
なんで? みんなに見送られてグレストルに戻ろうと思っていたのに、なんで?
「アカ様はあだし、嫌いか?」
「嫌いではない……だが」
「じゃあ好きなんだな。結婚だぁ! やったぁ!」
どうしよう。なし崩し的に結婚しましたは色々良くない。相手にも悪い。
「わ、わかった! 言いたいことはわかったが、まだお互い顔も何も知らないだろう?」
「アカ様は昨日あだしの顔も見でるけど」
「た、確かに……。顔は確かに知ってるが、そう。お金も無いし、結婚となるとなかなか先立つものが」
「今も無いから変わらねぇよ。子供ができるまでに2人で考えような」
あ、ああそう。そうですか。
それは、そうか。
「それとも、別で嫁さんいるのか?」
「嫁!? 俺はまだ誰とも結婚してないぞ」
「なら、いいでねぇか、な!」
どうしたものか。
腕に抱きついてくるコロンをだんだんかわいいと思ってしまう自分がいる。
が、今まで好意を寄せられたこともなければ寄せることもなかったのだ。
時間を。俺に時間をくれ。
「そうだ。ほら、俺は今からグレストルに行かなきゃいけない」
「そんなの決まってる、付いてく」
「……え?」
「付いてく!」
確定事項で付いてくるらしい。
周りを見渡す。このままだとあなた方のコロンがいなくなりますよ? 結構色々動いてくれてた人が村からいなくなるんですよ?
……誰一人として不満を持っているものはいない。みんな行っておいでみたいな顔をしている。嘘だろ。こんなことある? 夢かこれ。
異世界に突然飛ばされた時にも夢だと思わなかったのに。こんなことで夢と思わされるとは。
我ながら往生際が悪い。
結婚……はわからんが、付いてくるのはあきらめよう。
「わかった。ただ、まだお互い分からない事も多いだろうから、旅の途中で嫌な事があればすぐに言ってくれ。俺の顔を見て嫌になることもあるだろうし」
「嫌なことなんて絶対ねぇ!」
……本当に大丈夫だろうか。不安しかない。
二人旅か。色々隠し事も多いし、魔法バンバン使ったりしないよう自重していかなきゃいけないな。
村人に祝われ、見送られながら村を後にした。




