↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
77/120

コロンの夜更け

「どうすれば……」



1人、部屋の中で普段鎧を全身に装備した小太りの女は床に寝転んで疲れたようにつぶやく。


ようやく村人達が全員眠りについたのだ。


村人達の行動がコロンの目に付き始めたのは、鎧の男が柵を新しくしてくれた後からだった。


依頼には無い用事を頼み始めたのだ。


自分達でやれることすら頼み始めた。それも当然のように。


それを都度コロンが村人へ「アカ様へはそんな依頼をしていないからやめてくれ」と説明して回る。


そして鎧の男は当然怒り狂って暴力を振るい始めるかと思ったら、全ての頼み事を何事もなかったかのように聞いてあげる。


家の修繕(しゅうぜん)から始まり、子供の遊び道具に果ては畑の手伝いまでしてしまう。



「なんであんな優しいんだろうか……」



コロンからみて鎧の男は強かった。戦うところを目で見たわけではなかったが、少なくともザザンザを生け捕りにしてしまうほどには強い。


だが性格が強者(つわもの)のそれではない。


強く優しいなど絵空事(えそらごと)以外の何物でもない。


実際、緑のクチバシを含む高等級のパーティは優遇される。待ち時間の必要な受付は優先されるし、武器の予約や宿の予約も先に頼んでいた者の依頼をキャンセルさせる事ができるほどの優遇を受ける。


村なら要求されれば例え苦しかろうと無償で食い物を渡さなくてはならない時もある。


それは当然の権利で、才能だけでなく依頼をコツコツとこなしてそれだけ努力してきた結果であり、それを目指して上に登り詰める事を目指す者もいるのだ。


だが、今回村に来たハンターは毛色が明らかに異質だった。


そもそも、金にならない。グレストルは一番近いといっても歩けば5日かかる。帰りも含めれば移動だけで10日だ。それを金貨1枚で受けろというよくわからない内容の依頼だった。


それを受けるだけでも不思議だが、見たこともない道具をアイテムバッグから取り出して色々な事ができ、さらには自分で何でも作ってしまう。料理スキルを持っているようで、料理も自分で行っている。


この世界ではスキルが無くては全て失敗してしまうのだ。だから料理一つとってもスキルが必要になる。


多才でいて強く優しい。そんな人間がいるはずがない。



「だから、何か企(たくら)んでるのか……?」



そもそも顔を見せないように兜を装備しているのが、異質なことの一つだ。


食べる時も装備を外すことはない。


不意に部屋を訪(たず)ねても必ず兜を装備している。


何か重大な犯罪を犯した者は指名手配として顔の人相を全ての衛兵がわかるように、街や国境付近には必ず張り出される。


村にまで指名手配の人相が回ってくることは少ないが、警戒しているのかもしれない。


そうコロンが考えていると、不意に扉をノックする音が聞こえてきた。


控えめなノック音は村人のものではない事がすぐにわかった。村人なら力まかせにドンドン叩くはずだから。


急いで扉を開ける。「何かあればすぐに言ってほしい」と言って家を教えたのはコロン自身だ。


コロンの予想では、良くて村人の要求を辞めさせるように苦情を言いに来たか、最悪は今までの村人の要求に対する正当な報酬(ほうしゅう)を請求(せいきゅう)されるに違いないと思っていた。



「ど、どうしましたアカ様」


「……………………」


「な、なにか?」



長い沈黙だった。


扉を開け、立っているのは無言の鎧。コロンはだんだんと怖くなってきた。


怒りに任せて殴られるのではないか、どこからか剣を取り出して斬られるのではないか。さっきまで色々考えていたので、やはり何かを企んでいたのかという気持ちでいっばいになる。


反射的に謝ろうとした時に、鎧の右手が伸びてきた。


殴られる! コロンはそう思って少し身をすくめる。



「ああ、いやすまない。少し驚いただけだ。コロンが先日から走り回っているのを見ていて疲れの取れる回復薬を使ってもらったらと思って訪(たず)ねただけなんだが。味もそこそこの物だと勝手に思ってる。良かったら使ってくれ」



あまり喋らないイメージの鎧の男はそこまで結構な早口で話す。


コロンが殴られると思っていた右手にはキレイなガラスに入った青い液体が握(にぎ)られていた。


そっと手を伸ばして受け取る。



「はぁ……あ、ありがとう、ございます?」


「では」



扉が閉められた。


あの無言はなんだったのか。他人の事はいくら考えても分かるわけがない、と頭を振って後ろを振り向いたコロンは頭を抱えた。


そこにはコロンの鎧が転がっていた。


考え事に集中しすぎて鎧を装備することを忘れていたのだ。


豚獣人の醜(みにく)い顔を見て固まっていたのかと、声にならない悲鳴を上げる。


この顔はコロンがこの村に来るきっかけであり、前の村で体一つで捨てられた原因でもある。力の無いものが村を体一つで出ていくというのは死刑宣告と同等で、殺されたと言っても過言ではない。


だから、兜を装備していたのだ。誰にも醜(みにく)い顔を見られないようにと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。