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コロンの1日

怪我だらけで暗い夜の森を走る一つの小さな影。


プチプチの魔物ですら命の危機になりかねない小さな命。


脂肪の付いた体は太く、走るのには向いていない。


枝に擦られた皮膚からは鮮血が出て、足をもつらせれば膝から血がにじむ。


しばらく走っていたのだろう。口から激しく生きをしながら走っていた。


その頭には力なくタレた豚の耳が付いていた。


後ろから迫るプチプチから逃げる。死にたくない。そんな思いが顔の表情に現れていた。


また、何かに足を取られて激しく転倒する。


すぐに立ち上がろうとして足に走る鋭い痛みに小さな顔を歪めた。


顔をあげると、火の光が見えた。


松明を持った人が近づいてくる。


いつの間にか森は抜けていた。


ああ、助かったのか。ここもまた地獄か。


複雑な心境のまま彼女の視界はボケていった。



――――――――

――――――

――――



「は! ……またあの夢」



豚の耳が付いた少女はトラウマとして夢をよく見る。


忘れたくても忘れることなどできない。


家の隙間すきまから強い光が差し込んでいた。



「ああ〜!!」



日が昇る前に起きて村長の世話をしなくてはならない。


その後に畑の様子を確認して収穫。ご飯も食べなくてはならないし、共同トイレの清掃も彼女の仕事だった。


床から飛び起きた彼女は準備を始める。


狭い部屋の端に置いている木の鎧に身を通す。


兜も装備して、準備は完了。


外に出ると、きょネズミ族の大きな男が歩いている。



「あ、おはようございますセンさん」


「んお? おお、コロンか。今、起きたのか?」


「え、ええ。すみません」


「ハッハッハ! まあ、そういうときも、あるだろう。おお、そうだ、そうだ、そういえばな……」



体の大きなネズミの男はその巨体に似合った、ゆっくりと大きな声で喋る。



「ハンター風の、男が、村長のとこへ、行ったぞ」


「ええ!? いつですか!?」


「つい、さっきだ。まだ、村長と、話してるだろう」


「あ、ありがとうございます!」



走る。


自分が寝坊したせいで依頼を受けてもらえなくなるかもしれない。そんな思いでいっぱいだった。


村長はしばらく前から話すことが困難になっていた。


歩く事も食べる事もできるが、話が出来ない。理解できていないような、そんな状態が続いてそれも悪化している。


村のみんなと話し合いになり、彼女は今仕事の一つに村長代理の肩書まであった。


そんなに広くない村を全力で駆け抜け、村長の家の扉を開け放つ。



「すみませんハンターさん! 村長は最近少し体調が悪くあだしが伺います」



見慣れない鎧が視界に入り、ハンターだと一瞬で判断し、何者かを確認する前に頭を下げた。


何も言わない事に心配になったコロンはゆっくりと顔を上げる。


銀色の鎧に包まれた太った男。頭には兜まで装備して顔は見えない。


まさにコロンと同じような装備だ。コピーのようなその格好に驚いて声を上げてしまう。


が、太った男は気にした様子はなかった。



「あ、いえ。失礼しました。依頼を受けてくださったんですよね」


「……そうだな。これが石板だ」



気を取り直してそういうと、床に置かれた石板を拾ってコロンに渡す。


コロンも村長の家に保管してあった石板と合わせてそれが本物であると確認した。



「はい、確かに。あだしは村長代理のコロンっていいます」


「ああ、さっき村長には済ませたが、グレストルから依頼で来たハンターのアカだ。早速で悪いが、状況を教えてもらえるか」


「ええ、もちろん、と言っても見たわけでもなく、話せることは少ないのですが」



そして現状の報告を行う間、アカという鎧の男はうんうんと頷きながら聞いている。



「ちなみに、寝る場所はこっちで用意したほうがいいのだろうか」


「そんなことはありません! どうぞ」



依頼の報酬ほうしゅうにある食事を用意するべきかコロンが考えていると、アカから寝床の相談があった。


住んでいた人が結婚して村を出ていった家が一つ。



「ここは人が居なくなってしまった家だで……なので、使ってください」


「……わかった」



できるだけ失礼にならないように神経を使いながら話している。



「何かあればあだしまで言ってくれれば何でもしますので。大抵たいていはあそこの家におりますです」



コロンは近くの家を指した。



「とりあえず一度眠らせてもらう。昨日1日移動していて眠れていないからな」


「はぁ、そうですか。それは本当にご苦労様でした」



酷く疲れた声を出したアカは、脱力したように家に入っていった。



「なんだかやさしそうな人で良がった〜」



ハンターには過激な人も多い。ともすれば山賊とも区別がつかないやからもいるのだ。


等級が高くなればマトモな人も多くなるが、こういった報酬ほうしゅうの低い依頼には誰が来るかは運でしかない。


ほっと胸を撫で下ろしたコロンは、遅れた村長のお世話をするために走った。

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