子どもたちに大人気……?
「わあ!」
「すごぉ!」
「なにあれー」
1つ作るたびに子どもたちの歓声があがる。
結構な時間が経ったと思うが、1つも売れていない。
当たり前だ。目の前に子供の壁ができているのだから、客は入ってこれない。
最初に作った玉、木のスプーンとフォーク、木の皿、人型の木の置き物、木の馬、ドラゴンみたいな見た目の物、木刀、小さな木の台、小さな木の棚。
かなり、商品が揃ってきた。
木のうちわを作ったところで子どもが声をかけてきた。
「それなに?」
丁度今作ったうちわを指している。
俺は作ったばかりのうちわを渡す。
「こう……パタパタしてみろ。風魔法が使えるぞ」
「わあ!! すげぇ!! かぜまほう!!! ういんどかったー! ういんどぶれーど!!」
「かして! 次はわたしがやるの!」
わけのわからん嘘をつくんじゃなかった。
せっかく作った俺のうちわは子どもたちの手でぶんぶん振り回されている。
子どもの力なら壊れる事は無いと思う……けど、それ一応商品なんですが、返していただけませんかね?
キャーキャーワーワー凄いテンションなので、言える雰囲気ではない。
まあいいか。
全員が全員うちわに行けばいいものを、半分ぐらいはまだ店先で俺を見ている。客足が遠のくからあっちへ行ってもらえないだろうか。
うちわは諦めたから頼むよ。
新しい木材を用意して次は何を作ろうか考える。うちわを失ったからまた作るか、別の物にするか。
「売ってるの?」
まだこの中では年上でしっかりしてそうな子が声をかけてきた。
多分、純人族の子だろう。
「そうだ。全部商品だ」
「じゃあ、これはいくらになる?」
木の玉を指している。
欲しいのだろうか。この何の機能性もないただの木星。
値段を聞いてきただけか。
値段ねぇ……何も考えてなかったな。
「いくらだと思う?」
「え!? ……うーん」
聞かれると思ってなかったのだろう。びっくりした後に悩み始めた。
さて、いくらにするべきか。研磨剤は使っているものの、元はそのあたりの木を勝手に切っただけの無料の材料だ。
銀貨1枚の手数料なのか会費なのかよくわからない費用は稼ぎ出したい。
……全然わからん。
この子もまだ考えている。
「なんだ? これが買えたら買いたいのか?」
「え、うん。ほしい」
そうか欲しいのか。ほしいのなら交換条件だな。
「よし、じゃあこうしよう。お前、今手持ちはあるのか?」
「これだけ……」
鉄貨……7枚。
まさに子どものお小遣いって感じだ。
たったこれだけしか持っていない子どもからお金を巻き上げる事に、心が痛む。
そんな玉いくらでも作れる。しかし、これは商売だ。少なくとも金はいただこう。
「じゃあ、それを鉄貨1枚で売ってやる。その代わりにみんなをちょっと店から離してくれないか? ほら、他の客が来れなくなるだろう?」
「いいの? やったー!!」
鉄貨を1枚手に入れた。店での初収入だ。
そして交換条件通りに俺の前から子どもたちは離れていった。
邪魔ではあったが、ガヤガヤしなくなってさびしさを感じてくる。
「はい……これ、ご、ごめんなさい……」
「ん?」
次の彫り物を決めようとしたところで、子どもの一人が泣きながら割れたうちわを返してきた。
根本からポキリといってしまっている。
取り合いになったみたいだ。
「いや、まあ仕方が――」
「わああああん!!」
子ども特有の大泣きが始まった。
俺が……悪いのだろうか。
傍から見たら間違いなく俺が悪く見えているだろう。
仕方がないと言おうにも泣き声が大きく、かき消されてしまう。
どうしたらいいのだろうか。何をすればいい。
誰か、助けてくれ!
「う、うちの子が何かしてしまいましたか!?」
親!!
親きた!!
顔面蒼白で泣いてる子を抱きしめてはいるものの、母親が来てくれた。
丁度迎えが来る時間帯のようだ。他の子の親もちらほら心配そうにこちらを見つめている。いや、あんたたちの子どもも無関係じゃないぞ?
「なに、商品を一つ壊してしまったみたいで――」
「ええ!? ここに並ぶ高そうな商品を!? ああ……終わった……」
母親は服が汚れるのも構わず、地面に崩れ落ちた。
なーんでだよ!! 聞けよ最後まで!
「だから壊れたものは仕方がないので別に――」
「私が……なんとしてでもお返ししますので、どうか今日はこれで、これだけしかないのです。全財産です!! お願いします!」
「いや、いらんいらん! まず一度聞いてくれ話を!」
ジャラジャラ音のする布袋を俺の前に置く。すぐに母親の前に布袋を返す。
「あれで勘弁してやればいいのに」「かわいそうに」という声がどこかから聞こえてくる。
勘弁してほしいのはこっちだよ!!!
「あんた……どれを……なに壊したの」
「ヒック……なんかね、あそこにある、かぜのまほうがつかえるやつ」
「ああ……終わりよ終わり、アハ……アハハハハ! アハハハハ!! ハハハハハハハハ!!!」
話を聞いてくれない! 俺を外して親子だけで話が進んでいる。
風の魔法とか俺が冗談で言っただけのやつが大事になっていく。
なにこれ怖い。怖すぎ。
まず誤解を解かなくては。
俺は大きなため息をつくと力いっぱいに手を叩いて大きな音を出し、2人の意識を強引に俺へ向けてから話し始めた。