新しい客
「本当に大丈夫なんで」
なんとか誤解が解けた親御さんは子を脇に抱えて地面に頭が着く勢いで頭を下げると走り去っていった。
災難だったな、自分。
慰めてくれる人は誰もいない。なら自分で慰めるしかないだろう。
さて、割れてしまったうちわを捨てるのももったいない。
うちわの柄の部分を彫り始める。
中を空洞にして四角い穴を開けて……。
ちょっと長い笛の完成だ!
いいな。ポンっと地面に置くと、程よい長さで見た目がいい。
簡単に模様を付ける。うん、さらに良い。
今まで作ったものには模様を付けていない。取り敢えず数を揃えるのを優先していたからだ。
もう十分揃っているので次からは遊び心を加えるのは大事だろう。
うちわの薄い方はどうしようか。
独特な形だからな。なかなか難しい。
細く削って、楊枝を作るか。あ、櫛もいいな。
丁度いい薄さだ。2つ作れる大きさだし、パパっとくり抜いていく。
この櫛にも模様を刻んで完成!
我ながらなかなか良いものができたと思う。カッコいいリサイクル商品だ。
壊れたものも無駄にしない。
「やあ。またあったな」
金髪の男。錬金術ギルドの扉を破壊したやつだ。
「その鎧だからすぐにわかったよ」
なんだろう。馴れ馴れしいな。そんなに深く関ってないはずだ。
「一度僕達はメルートへ戻る事にしたんだ」
なんだ? 俺はお前の友達かなにかか? 知らんがなそんなこと。
俺は言葉を発してないが、一人でしゃべっている。
一人で会話って成立するんだな。すごい。
「その前に一度声をかけておこうと皆で探していたんだよ。お、きたきた」
なんだろう。今日は商売したらダメな日だったようだ。
客じゃねぇならどこかへ行きやがれ! なんて頑固おやじみたいな事を言ってやりたくなった。
「おい! こっちだ!」
「あらぁ。こんなところにいたのねぇ」
「本当にいつも全身鎧なのね」
「別に会わなくても良かっただろうが。本当に物好きだよな、おまえら」
「……」
さあ、店先がやかましくなってまいりましたー!
金髪の男を筆頭に、両脇を抱えられた身長190cmはありそうな巨体のゴツい男。その右脇に魔女っ子帽子を被った女。左に黒い忍者。後方腕組で地面を見ながら興味なさそうな女弓兵。
自分のことを棚に上げて言うと、よくこんな個性的なメンバーが集まったものだなぁ、と。
「そういえば、店をやってたのか。ちょっと見させてもらうよ」
今の気づいたのか。何か買っていってくれ。
「あ! この薬!」
魔女っ子が俺の緑色の回復薬を指差した。
「これ、効いたわよぉ。ありがとうね、鎧さん。一本いくらかしら」
大男が聞いてきた。
いくらにしてやろうか。
そこそこ有名なメンバーみたいだし、ふっかけてやるか。
「銀貨で2枚だ」
「…………」
ふっかけすぎたようだ。黙ってしまった。
「めちゃくちゃ安いな。いいのか? 僕たちだからって安くしてくれなくていいんだぞ? お金にはそれほど困ってないからな」
安い!? これで? 銀貨2枚だぞ! 金銭感覚バグってんのか!
くそ! ぶん殴ってやりたくなってきた!
「ふっ、初回限定価格だよ。お近づきになれたということでな」
こう言うしかないだろもう。
いまさら「いやいや銀貨は3枚だ!」とか小物商人臭がして言えないだろう。
「この街の軟膏で小銀貨2枚だったわね、すごく安いし全部買ったら?」
「そうだな。そうしよう。じゃあ回復薬は全部買うよ。まだゴザーも調子が良くない。薬を追加で塗ってみよう」
「ああん! 嬉しくてキッスしたくなってきたわ! 鎧さん、あたしにキッスさせてくれない!?」
「遠慮しておこう」
足を痛めているみたいで良かった。
この男、冗談で言っているわけではない。
飛びついて来そうな危うさがある。
金髪の男が金貨2枚渡してきて回復薬を全て取っていった。
本当に金に困ってないのだろう。腹立たしい。
でも、よく考えたら回復の遅く個人差のある軟膏型の回復薬で小銀貨2枚なのか。……いや、銀貨2枚でも十分に高いとは思うが、違うのだろうか。
よくわからない。




