ぶつかり合う黒のモンスターのこぶし!
森の奥深く、そこにはプチプチの死骸が散乱し、一部は腐敗し始めていた。
死臭の漂うその場所に、緑のクチバシのメンバーは足を踏み入れた。
「話に聞いていた弓兵の最後か……」
金髪の男が乾いた血の池に残された足を見つめながら呟いた。
事前にギルドに寄った彼らは何が起きたかを直接当人から聞いていた。
矢を放った瞬間、彼の命が奪われた、と。
「ゴザー。盾、行けそうか?」
ゴザーと呼ばれたゴツい男は、タワーシールドの影に体を隠したり出たりと黒のモンスターの前で準備をしていた。
「どうかしら。正直、そこが見えないわ。耐えれても一発かしらねぇ」
「メルトリゥ。一応鑑定したがやっぱり無理だな。レベル差が10以上開いてやがる」
金髪の男、メルトリゥに忍者風の男が告げる。
忍者風の男の後ろから舌打ちが聞こえてきた。
「……勝手なことをするな。ソル。敵対行為と取られたらどうする。事前に確認したはずだろう。慎重に行動しろ」
木を背にした弓兵の女が黒のモンスターから目を話さずに声を出す。
メルトリゥはチームの良くない雰囲気にため息を一つ出して口を開いた。
「そうだな。アタリの言う通りだ。ソルがやられたら僕達は逃げ道を失うんだ。慎重に行こう」
「わかったよ。すまねぇな」
メルトリゥの言葉でソルはつまらなさそうに座り込んだ。
「それにしても本当に動かないのね。こんなに近づいてるのに」
「確かに不気味だな。ケイリー、そろそろ魔法を全員にかけてもらっていいか?」
「……本当にやるの? まあわかったわ」
ケイリーと呼ばれたツバの広い帽子をかぶった女から魔素が流れ始める。
曲がった杖を右手に、杖に左手をかざす。
「魔素の流れを守りに変換! 『エリアハイプロテクション』」
黄色い光が5人全員を包み込む。
防御力の上昇効果のある魔法。
続けざまにもう一つ魔法を発動させる。
「魔素の流れを速さに変換! 『エリアハイクイック』」
次に青い光が5人を包む。
素早さや動体視力に影響を与える魔法だ。
「最終確認だ! 今日はただの様子見だ! ゴザーが石をあの黒のデカブツに投げる。敵からの攻撃を盾で防ぐ事ができるか、できた場合どれほどの威力かを確認し、撤退。万が一できなかった場合は負傷したゴザーをソルが回収して撤退。問題はあるか?」
メルトリゥは全員の意思を確認してゴザーに向き直る。
「すまないな。かなり危険だとは思うが、やれそうか」
「何言ってんのよ。昇級、するんでしょ。やるわよ!」
力強くうなずくと石を投げてタワーシールドを両手で持って地面に刺し衝撃に備えた。
ゴザーはタワーシールド以外は軽装で身軽な格好だ。
その張り付いた服から筋肉が盛り上がるのが見えた。
ソルはいつでも飛び出せる準備をするため、地面に手を着いて重心を前のめりにしている。
他のメンバーは攻撃の種類を見極めるためにまばたきすらしていない。
ゴシャ……。
タワーシールドと何かがぶつかったとは思えない音がした。
金属音とも違う、すごく重たい音だ。
「耐えた、わよ――」
ゴザーがそう言い終わる前に、メルトリゥは叫んだ。
「連続で攻撃してくるぞ!! ソル! 回収しろ!!」
ソルが飛び出す前にバキャ……というなにかが割れる嫌な音が響く。
ソルが飛び出した。3発目が放たれる。
3発目で金属音がしたと思ったらタワーシールドは3分割になり森の彼方に飛んでいく。
「ケイリー!!」
「準備できてるわよ! 魔素の流れを鉄の壁に変換!! 『アイアンウォール』」
同時にソルはゴザーを捕まえると、隠蔽スキルを発動させて姿をくらませると短い距離だが瞬間的に移動した。
ステルスと縮地の同時発動だ。縮地の移動距離はせいぜい3mといったところだろう。
黒のモンスターの4発目の攻撃はケイリーの魔法によってできた魔障壁に当たった。
薄紫色の魔障壁はアイアンウォールの魔法で固められ、その硬さは鉄と同等で厚みは詠唱者によって変わるが、この魔障壁は20cmは超えている。
それが一撃で粉々に砕け散った。
「魔障壁を物理的に壊すか……見たことがないな。退避!」
メルトリゥの掛け声で全員が姿を森の中に消し、また黒のモンスターは一人になった。




