肉!
店主が俺の顔を見るなり手に持っていた作りたての肉を俺に投げつけてきた。
至近距離だったが皿ごと投げられた肉を何とかかわしてヘルムを握りながら床を転がる。
「ずいぶん、妙な配膳の仕方だな」
あまりの驚きで心臓がバクバクと音を立てているが、冷静に落ち着いて極力無表情でヘルムをかぶりながら話す。
なにせ、これが正式な渡し方なのかもしれない。
「純人族が……!! 殺してやる!!」
ドスの効いた腹の底からの声を聞いて、これは非常にマズイと察した。
ギルドで話していた種族間の相性だかなんだかのあれか。顔を見て俺を純人族と認識したのだろう。
こっちの世界の常識を知らないんだからご勘弁願えないだろうか。
2mを超える巨体から繰り出されるゴツい腕が顔の前を通過して轟音と共に風が店内のホコリを巻き上げる。
話してどうにかなるものではない……気がする。
「邪魔したな」
何度も迫りくるブンブンパンチを右へ左へときにはかがんでかわしながら焦らず急いで外に出た。
……外にまでは追ってこないようだ。良かった。本当に良かった。
ん? いやまて。金を返せ。
もう一度店内に戻ろうとしてテーブルか何かが凄まじい音を立てて崩れる音が聞こえてきた。
……今日はやめておこう。
クソ! ただただ金を巻き上げられた! 時間も無駄にした! 腹も余計に減ってきた!
俺は今、無性に腹が減っているんだ! 飯を食わせろ!
昨日からまともに何も食べていないと思うとさらに腹が減ってくる。
大股になり、早足で向かいの店に入る。
「飯は食えるか!」
少し怒気を含んだ声が店にこだまする。
店の奥から見た目が純人族の若い男が恐る恐るといった様子で顔をのぞかせている。
怖がらせたのは申し訳ないが、腹具合がそれどころではない。
「飯は、食えるのか! 食えないのか! 俺は純人族だ!」
「あ、ああ。構いませんよ。何を用意しましょう」
小銀貨を1枚テーブルの上に置いた。
危うく勢いそのままに叩きつけそうになったが、そんなことをしても意味がないととっさに力を緩めた。
「なんでも構わない。これで量があるものを作ってくれ」
「は、はぁ。なんでも構わないんで?」
「好き嫌いは多分ないなら構わない。すまないが腹が減っているんだ。できるだけ早くしてくれるとありがたい」
「わ、わかりました」
戸惑った様子の男は店の奥で肉を焼き始めた。
どれだけ待つことになるのだろう。
近くの席に座って待つ。
「はい! ササニンの舌肉です!」
子供が皿と肉を持ってきた。
尋常じゃないぐらいに早い。
ベーコンのように薄く、火が通りやすそうな肉だ。だから早く出せたのだろう。
見た感じ塩も振られてなければ胡椒もついていない。
食べようと思ったらヘルムを取るのも忘れていることに気づいた。
ヘルムを外して、脂身の少ない肉を一口で食べる。
…………。
うまい。なんの味付けもないが、肉の味が口に広がる。
空腹が余計に旨味を感じさせているのか、肉がうまいのか。
鼻からも肉の旨味が抜けていく。
しっかり味わうために一口で食ってしまったそれをよく噛む。
……後味も悪くない。調味料がついていないのが残念だが、筋だからけのプチプチなんかよりよほどおいしい肉だろう。
全然足りないがな。
「はい! ダクカエルの肉です!」
まだ小銀貨1枚分の肉ではなかったようだ。
少し焦げてはいるが骨のついたプリプリとした白い肉を前に、これは間違いなくかぶりつくべきだなと思った。




