四百八十九服目 大いなる惑星の片隅で(35)
陽は久しぶりに父親と喧嘩した。
その喧嘩には母親も同席し……その時に出された声は陽の家中に響き渡り、両親を傷つけただけでなく、極道のみんなをとても心配させた。
しかし陽も、譲れなかった。
清雲事変の中で、自分はあまり前に進めなかったから。
個人の戦闘力はともかく、組織力に関しては自分の力ではなく、極道の娘だからこそ持てたもの……親の七光りであるから。
それに比べて、璃奈と千桜と政宗は違う。
三人は陽とは違い、清雲事変に関わる中で特殊能力が目覚めた。
さらには、清雲事変に関わるキッカケとなった元転校生にして、霊媒師の一種である煙術師の一人にして、国際連合の機関の一つに所属している秘密捜査官であるカノアは、霊媒師どころか、ヒトとしてさらなる領域へと踏み込んだ。
――自分だけが置いてかれている。
そう思うには充分な環境だった。
いや、正確には佐護と宇摩もまた、自分と同じく何も変わっていないのだが……それでも劣等感と焦燥感はなくならなかった。
最終的に、親子喧嘩の末にある程度は落ち着きはしたものの。
それでも劣等感と焦燥感はなくならなかったため、彼女は許婚の優を移動のために呼び出して、カノアと霧彦のもとへとやってきた。
父親にぶたれた頬はそのままで。
ただただ、自分が前に進むための手段を知りたくて。
今のカノアと霧彦ならば、その手段を知っていると思ったから。
「…………ずいぶんと早いご到着で」
病院の屋上の上空。
まだ月が見える時間帯に、その月を背に、屋上との距離がまだそれなりにあるというのに着地した、自分の所属してる極道組織『飛崎組』の親分の娘を見たビリーが、最初に発した言葉はそれだった。
カノアと同じ煙術師ではあるものの。
同時に陽の父親の剛二と親子の盃を交わし、飛崎組の組員としても生活していたからこその言葉だ。
しかし、陽はそれを無視した。
さらには、自分の背後で優がドローンバイクを病院の屋上に着陸させるのも無視して、スタスタとカノアと霧彦に向かって歩み寄る。
しかし、カノアも霧彦も動じなかった。
先祖の霊のみならず、それ以外の霊的な存在からの声も聴き、陽がここに、近い内に来る事を知っていたからだ。
無論、二人は陽の苦悩も知っていた。。
だからこそ、ある程度近づいたら答えを告げようと――。
「お嬢、五秒……いや三秒でいいので時間をくださいッ」
――したところで、無視したビリーに止められた。
陽は怒りを覚えた。
ようやく親子同士の喧嘩に決着がついたのに、ようやく自分が得たかった答えを得られる、まさにその時にお前も邪魔するのかと。
「カノアに伝える事を伝えたらもう去りますので、どうかッ」
しかし、その怒りがぶちまけられる事はなかった。
ビリーが陽に、最初に出会った時とは違い……陽が激怒する前に、無駄に慌てずちゃんと頭を下げたためだ。
長年、飛崎組にいた事でビリーはビリーで少しは変われたのである。
「~~~~ッッッッ!! …………分かった。すぐに済ませな」
そして、そんな対応をされては。
陽も陽で、極道の娘として、ビリーの日本での家族の一員として、聞き入れないワケにはいかない。邪魔された怒りこそ消えてないものの、彼女は腕を組み、ただただビリーの用事が済むのを待った。
「カノア」
すると、ビリーはすぐに動いた。
宣言通り三秒で終わらせるためにカノアから見て右側へと移動し……彼女の右肩に、ただ手を置いた。
そして宣言通り、ビリーはすぐにその場を去り。
一方でカノアは、なぜか数秒だけ驚いた顔をしたかと思えば。
その場ですぐに、なんと両手で自分の両頬を思いっきり叩いた。




