四百八十八服目 大いなる惑星の片隅で(34)
名雲優は、夜中に鳴り響くマイフォンの振動音により叩き起こされた。
清雲事変の後始末――アルラ達が霊力などを吸収したせいで死亡、よくても虚脱状態に陥り動けない状態となった者の搬送や、事件を機に妙な動きをし始めた組織の監視などに関わったため、これでもかと疲労困憊で……数時間前にようやく就寝したにも拘わらず。
これにはさすがの彼も、怒りを隠しきれなかった。
行動派な双子の姉を反面教師にし、できる限り穏便に事を進めんとする彼でさえも……こればっかりは、相手に罵声を浴びせたくなるほど怒りを覚えた。
半分は、マナーモードにする、もしくは電源を切らなかった彼の責任でもあるのだが。
とにかくそんな寝不足にして疲労困憊な優は、怒りに任せて乱暴にマイフォンを手に取った……のだが、画面に表示されていた人物の名前を見た途端、その怒りは呆れへと徐々に変わっていった。
「…………………………今度はなんだよ、陽ちゃん」
相手は、彼の父親こと辰雄が決めた許婚にして、その辰雄が所属してる極道組織の中の同じ派閥の組である飛崎組の組長の一人娘の陽だった。
自分の双子の姉である勇と同じく行動派で、それゆえ出会った時から勇と同じく時にトラブルに巻き込まれたりするため、出会ってからは今までの二倍は頑張り事を収めんと努力してきた……許婚なのにそんな共通の思い出しかない相手だった。
ちなみに、優は陽の事を嫌ってはいない。
むしろ慎重派な優を新しい世界へと誘ってくれたりしてくれる好ましい相手だ。
そして今回、そんな陽から、しかも夜中に連絡を受けたのだ。
困っているなら力になってあげたいが、今、そこまでの力は彼にない。
だがわざわざ夜中にかけてくるため、それ相応の問題が亜発生した可能性もあるため、優は可能な限り不機嫌な印象を陽に受けないよう気をつけつつ「もしもし」とマイフォンに出た。
『優、ちょっと駆け落ちに付き合ってくれないかい?』
「…………………………おん?」
優は困惑した。
いや、駆け落ちというフレーズは許婚として多少は魅力的なものだとは思うが、もしかすると冗談かもしれないが、いったいなぜ彼女はそんな事を言うのか……。
「…………お義父さんと喧嘩したの?」
『まあそんな感じ』
優の想像通りだった。
しかしその声は不貞腐れたような感じではなかった。
『喧嘩そのものはさ、ちゃんと決着したんだ。だけどね、ちょっとね……カノアに早急に会わなきゃいけなくなってね』
むしろ、新たな目標が生まれたような爽快感さえ感じられた。
だけど清雲事変の中心地点で戦っていた霊媒師の一人であるカノア・クロードにすぐに会わなければいけない、と聞いて、悪い事ではないとは思うが、それでも優はまた、新たな嵐が起こりそうな予感を覚えてならなかった。
※
約一時間後。
自分のドローンバイクに乗せた許婚が、屋上にドローンバイクを着陸させるその前――まだそれなりの高度だというのにドローンバイクから跳び下り、屋上に着地したのを優は見た。
許婚である陽の頬は腫れていた。
おそらく親子喧嘩の中でぶたれたのだろう。
しかしそれについてを、優は言及しない。
詳細を知りたい欲こそ、陽の事を心配する許婚としてあるが、それ以上にそれは血の繋がった家族の問題であるし、なにより陽が、自分の意志で進む道を決めたのだから。
少なくとも今月中には終わります。




