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 四百九十服目 大いなる惑星の片隅で(36)

 ――カノア、お前……いろんな事が分かるようになったせいか、ほんの数瞬だけど、時々つまらなそうな顔になるぞ。


 あえて自分の心にプロテクトをかけた上で。

 ビリーはカノアの肩に触れ、一瞬の中でそう注意した。


 その瞬間、カノアの目が見開かれる。

 今の今まで、言われるまでその事実に気づかなかったのだ。


 ――まだ俺しか……いや、もしかするとお前が居候していた家の人も、気づいていたかもしれんが……とにかく、お嬢の前でそんな顔をするなよ? まあ、お嬢を悩ませた俺がいうのもなんだが。


 そして、そのような顔は……果たして苦悩する陽に見せられるのか。

 むしろ、陽の神経を逆なでして、十中八九関係が悪化させてしまうだろう。


 ――それから、言ってなかったが……。


 それから、ビリーはカノアに伝えるべき事をいくつか伝え。

 そのまま、宣言通り屋上の出入口へと向かい去っていった。


 今、陽に合わせる顔がないのもそうだが。

 ビリーはビリーで、すぐにしなければいけない事があるから。






 するとその直後。






 カノアは自分の両頬を思いっきり叩いた。






 都会の空気が悪いせいで、あまり星が見えない真夜中に。

 さらには、それなりに都会の喧騒が聞こえてくる中で、カノアの頬が叩かれる、乾いた音が響き渡った。


 その場にいた全員も、目を見開いた。

 カノアの行動の意図をまったく理解できず……彼女と同じ領域に至り、ある程度の事が分かるようになった霧彦でさえも、唖然とした。






「陽、貴様がワシと同じ領域を目指すなら、ヒマラヤにある『シャングリラ』……いや正確には、かの楽園と同じ名前のコードネームをつけられた場所に行く必要があるッ」






 だが、カノアが真剣な表情で陽と向き合い。

 しっかりと、はっきりとそう告げた事で……霧彦は、そしてカノアにも協力してくれている霊的な存在は改めて理解した。






〝白き同胞〟は、ある程度完成された存在ではあるが。






 だからといって完璧な存在ではなく、だからこそこれからも変わり続けなければいけないのだと。






 たとえ……最初からオカルトな煙草とちゃんと向き合わなかったという、まさかのイレギュラーこそあったものの、ある程度〝白き同胞〟として完成していた状態で誕生した霧彦であろうとも。






「シャングリラ? コードネーム? え、そんな場所が本当にあるのかい?」


 突然のカノアの発言に、陽は戸惑った。

 いや、自分が求めていた答えではあるのだが、今までカノアと霧彦から聞いたのと同じくらい荒唐無稽な話であるため、すぐには納得できない。






「九十年代に発見されてるんだ」






 カノアの説明に、霧彦は補足を入れた。

 カノア、そしてこれからの自分の変化を意識しながら。






「そしてその『シャングリラ』みたいな場所は、世界中にいくつか存在する。世界が終わった後にこそ、惑星規模で重要になる場所だからね」






「陽にはその中の『シャングリラ』を目指してもらう。と言ってもそこにある何かが重要なのではなく、そこに行く過程こそが重要じゃ。ただし、マイフォンなどの文明の利器や誰かの力に頼らず……たった一人で場所を突き止め行かねばならぬ」






「…………オーケー。他に注意点はある?」


 陽は思いのほか、すぐに了承した。

 確かに信じられない事も発言の中に含まれてはいたが、そしてその発言の内容の過酷さを、ある程度は把握してはいるものの……それでも今のカノアと霧彦は信用しているのだから。






 これまで何度も、共に戦ってきたからこそ。






 カノアは、そして霧彦は信じられるのだと。






「これ以上は、さすがに言えぬ」

「これ以上は、飛崎さん自身が見つけないと意味がないんだ。ごめんね」

「いや、謝んなくていい。もう充分、解ったからさ」


 たとえ嘘や、あえて言ってない事があるとしても。

 それは自分のためを思ってのものだと……信じているのだから。






「それから……夜中に来たのに、教えてくれてありがとね。あとは自分でなんとかしてみせるよ」

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