第9話
王と魔王の言葉が響くと、その場は水を打ったように静まり返った。
両者公認。
その重みは、誰が聞いたとしても十二分に理解できるものだった。
「魔王様がそうおっしゃるのであれば、我々魔王軍一同! 一切の疑問を抱きません!」
ラヴャーナが、声を張り上げて宣言した。
「ギルドを代表して、この度のご婚約、国民皆が喜んでおります! みんな! 盛大な拍手で迎えろ!」
ディローダが負けじと叫び返す。
魔王軍側ではない人々から、顔を上げないまま、大きな拍手が巻き起こった。
それは明らかに「こちらの方がより祝っているのだぞ」という、精一杯のアピールだった。
それに対してラヴャーナは、歯ぎしりするような「やられた」という表情を浮かべつつも、すぐに盛大な拍手を返した。
二人の対抗心丸出しの拍手合戦に、ルクスは額を押さえた。
(……何やってんだよ本当に)
隣に立つサーラはというと、肩を小刻みに震わせて笑いを堪えている。
長い赤髪の下で、彼女の口元が緩んでいた。
そんな様子を横目に、魔王が魔王軍の集団へと歩み寄っていった。
「お前ら、帰るぞ」
その言葉に魔王軍たちの表情が引き締まった。
サーラもそれに続き、父の後ろへついていく。
そして去り際に、肩越しにルクスの方を振り返った。
「じゃあ……またな」
父親を立てるための、優しい気遣いなのだろう。
ルクスは頷きで返した。
言葉は出なかった。
魔王軍の一人が腕を高々と突き上げた。
黒い闇が一気に広がり、魔王軍の全員を包み込む。
もうそこに彼らの姿は、なかった。
おそらく、闇属性の転移魔法だろう。
その光景を見ていた王城の騎士の一人が、
「王城の前で転移魔法を使うとは……野蛮な」
と吐き捨てた。
ルクスはその声のする方向へ、顔を向けた。
瞳の奥に、静かな怒りが宿る。
(その吐いた唾、飲み込めるのか? 王と仲間たちがどれだけ重いものを耐え抜いてきたか、何も知らぬお前が語るな)
煮えたぎるストレスが、一気に怒りへと変わった。
その言葉を放った騎士だけでなく、周囲にいた騎士たちまでもが、揃って体を小刻みに震え出した。
ルクスの放つ殺気に、息を詰まらせたのだ。
「こら! バカモン!」
後頭部に強烈な衝撃が走った。
ディローダが、拳を振り下ろしていた。
「痛っ! 何すんだよ、ディローダ!」
ルクスが頭を押さえて振り返ると、ディローダは腕を組んで胸を張っていた。
「殺気がだだ漏れてんだよっ! 王様もいんだから、落ち着けっての!」
「落ち着けって……お前が言うのかよ!」
「だとよ! ちげーねぇ!」
ディローダが仲間たちに向かって得意げに叫ぶと、ギルドの面々が一斉に大笑いした。
重苦しい空気を、吹き飛ばしてくれる家族のような仲間たち。




