第5話
そう。
勇者としての神話は、ただルクスが強いだけではなかった。
彼は子供の頃から、驚異的な回復力を持っていた。
どれだけ激しい訓練で体を酷使しても、骨折や内臓の重傷すら、すぐに癒えていく。
それが彼の成長を加速させた一方で、周囲は不気味に感じ、原因を探った。
以前住んでいた別の国で神官に診てもらった結果、強大な神力がルクスに深く繋がっていることが判明した。
そして時が経ち、この国にガルーヴァが派遣され、ルクスも共に移った頃。
その神力の源が、この聖女レリファであることが明らかになったのだ。
その偶然すら周りは運命と囃し立てた。
それ以来、この祈りの間を通して彼女の祈りがルクスを癒し続け、
彼は仲間たちの盾となり、矛となり、己の身を顧みず戦っていた。
ルクスは跪いたまま、微笑んだ。
「助かるよ。レリファ」
彼にとって彼女は女神だった。
文句を言いつつも、それが心配の裏返しであることには気づいていた。
報告のたびにこうして本気でぶつかってきてくれる。
祈りが長いほど、こちらの傷の深さも分かるのだろう。
(今回も……三回は死んだ気がするしな。迷惑をかけた)
すると、ルクスの鼻からぽたりと血が落ちた。
「おっと」
とっさに手のひらで受け止める。
レリファが眉をひそめ、指先をかざした。
ルクスの顔が癒しの波動に包まれる。
鼻血はたちまち止まり、鼻の下も、鼻の中も、手についた血も、きれいに消え去った。
「何よ、鼻血なんて出しちゃって。この部屋汚さないでよね」
「ありがとう。さっきぶつかった時に切れたのかな」
「あんたの体でぶつかって怪我するなんて、鉄とキスでもしたのかしら?」
「そんなわけないだろ。なんかデカい女だったな」
「ふーん。変態……何想像してたわけ?」
「はぁ!? そういうんじゃねーよ!」
「あんたとぶつかって鼻血出るほどデカくて硬い女なんているわけないでしょ!」
「いたんだって! 信じてくれよ!」
そんなやり取りをあと何往復か繰り返した後、レリファは踵を返した。
「……ったく、もういいわよ。祈りの時間だから出て行って。女にうつつを抜かして死んでも知らないんだからね!」
「わかったよ。いつもありがとな。それじゃまた」
ルクスが扉に向かって歩き出すと、後ろから小さく、か細い声が漏れた。
「……バカ」
そしてその日から数日間、なぜか魔王軍は襲ってこなくなった。
ルクスは、ギルドの受付カウンターに立つガルーヴァに尋ねた。
「父さん、今日も王国から依頼はないのか?」
「おう。ずいぶん静かになっちまったな。魔王軍の動きも止まってると聞いている」
「……大規模な準備期間か?」
「どうだろうな。その代わり魔物の討伐依頼は増えてきてるが受けるか?」
「いや、力を温存しておくよ」
「そうだな、それがいい」
ルクスはこの貴重な時間をすべてトレーニングに費やした。
朝から晩まで剣を振り、身体を鍛え、祈りを捧げる。




