第3話
ルクスはその足でギルドを出た。
街は、世界の縮図のようだった。
大通りでは、人間、魔族、獣人が肩を並べて歩いている。
「なぁ、今日の晩飯は何だ? またあの煮込みか?」
「またって、何よぉ」
蜥蜴の顔をした魔族の男が、人間の女性と笑顔を交わしつつ並んで買い物をし、
「逃げろー! 今度は俺が鬼だぞー!」
「待てー!」
猫耳の魔族の子供と人間の子供が一緒に笑い声を上げつつ駆け回っていた。
全ての魔族が魔王軍に与しているわけではない。
この国では、誰もが体のどこかに「契約の指輪」を身につけていた。
それが第一種戦争犯罪――テロや無差別殺戮――を犯したと同時に、即座に騎士団へ通報される仕組みになっている。
だからこそ、この街は戦場に最も近くありながら、奇妙なほどの平穏を保っていた。
ルクスは毎日、神への祈りを欠かさなかった。
今日も、小さな願いを捧げに、教会へと足を向けた。
この国の教会は、多様な神々を一堂に祀る特別な造りだった。
前線という特殊事情を配慮した結果、人間も魔族も、誰もが等しく祈りを捧げられる場所になっていた。
ルクスは足を進めつつ、左手の指輪を見つめた。
(こんな日々でも、繰り返していたらきっといつか……出会えるはずだ)
教会は、巨大だった。
各宗教に配慮された結果、屋根は飛び出し、壁は突き出し、尖塔は尖り、丸いドームもある建物だった。
扉は大きく開け放たれ、中から光と香りが溢れ出している。
ルクスが中へ足を踏み入れようとしたまさにその時――
正面から、自身を優に超える何かが、勢いよくぶつかってきた。
ルクスは倒れこそしなかったが、相手を傷つけないよう咄嗟に後ろへ下がった。
「すまないな。前をよく見てなかった」
女性の声だった。
ルクスが見上げると、そこには頭二つ分は大きい女性が立っていた。
ガルーヴァと同等、いやそれ以上の身長。
胸と腰を覆う鱗の付いた皮鎧の下で、凄まじい筋肉の隆起が浮かび上がっている。
腰まで届く長い赤髪をかき上げ、彼女はルクスに手のひらを差し出した。
「坊主、痛みや違和感はないか? 怪我は?」
「ああ……こちらこそ、すまない」
ルクスは手を伸ばさず、頭を下げた。
すると、
頭頂部に衝撃が走った。
「無事で何よりだ。俺はサーラ・ベアルーシュだ。当分ここに滞在する。何かあったらベアルーシュで探してくれ」
ルクスが顔を上げると、サーラはすでに手を離し、満足げに笑っていた。
どうやら頭を軽く叩かれたらしい。
彼女は祈りを済ませた後だったのか、そのまま街へ歩き去っていった。
ルクスはその後ろ姿を見送り、
「……でかい女だったな。でも、きれいな人だった」
改めて教会の中へと足を踏み入れた。




