第13話
ルクスとサーラは、黙々と肉を食べていた。
テーブルに並ぶ魔物肉の豪華な料理は、まだ熱を帯びたままだった。
フォークとナイフが皿に当たる小さな音だけが、しばらくの間、静かな空間を満たしていた。
ルクスが顔を上げ、サーラの顔を見つめた。
年上に見えるほど大人びた端正な顔立ちだったが、こうして間近でじっくり見つめると、頬の柔らかな曲線や瞳の奥に覗くあどけなさが残っている。
確かに同い年と言えば同い年だな。
そんな実感が、内側にじんわりと染み渡った。
「お前、同い年だったんだな」
サーラは肉を一口飲み込み、グラスに指先を伸ばし、頷いた。
「ああ。俺はオーガ族の血を引いているからな。ちょっと老けて見えるんだ」
「老けてって感じじゃないけどな。きれいだと思うぜ?」
サーラのフォークを持つ手が、震えた。
「……きれいって。お前、よくそんなこと平気で言えるな。恥ずかしくねぇのか?」
「恥ずかしいってのはないな。きれいなものはきれいだし、可愛いものは可愛いだろ?それに昔、誰かに言われたんだよなぁ。女性はいつだってきれいとか可愛いって言っておけって。まぁ、つっても思ってなきゃ言わねーけどな」
サーラは髪を耳にかける仕草で、顔を少し逸らした。
「だから……もういい。はぁ……なんだよ……調子狂うな」
最後の方はほとんど小さくて聞こえなかった。
サーラはグラスを置くと、テーブルに両肘をついて少し身を乗り出した。
「とにかく、俺たちは婚約者だ。形だけとはいえ、多少らしく振る舞わないと勘付かれる。それでは父上の計画がダメになってしまう……」
「それは俺も懸念している。だが、俺も……誰とも交際経験はない。白いってのはよく分かんねーけど、なんとか周りをだますしかねーんだよな。親しい人に嘘をつくのは、嫌なんだけどな……」
「俺だって交際経験なんてねーよ」
「そうなのか? そんなに美人なのにか?」
「っだからお前……俺の顔しか見てないのか? こんなデカイ女……誰が欲しがるんだよ」
「は? カッコいいじゃねーか。それもお前の良さだろ」
サーラは口を半開きにしたまま、ルクスをじっと見つめ返す。
「……また、お前……そんなことを恥ずかしげもなく」
ルクスはフォークを置いた。
「でもよ、これだけは約束しようぜ。俺たちは絶対に本気にならないって」
「……それはずっと言ってるだろ」
「俺はさ、この指輪に誓ったんだ。将来結婚しようって」
ルクスは左手の薬指を持ち上げ、照明にかざした。
サーラの意識が、その指輪に留まった。
「そうか……それで?」
「子供の頃なんだけどな。両親が死んで、その時に元気付けてくれた子だったんだけどさ。その時に結婚しようって言ってくれてさ。俺、正直頭の中わけわかんなくなっててさ。嬉しくて、でも悲しくて、でもきっとまた会ったら、そいつのこと好きになるって俺は信じてるんだ。つっても顔も名前もトラウマが蓋して思い出せないんだけどな。でもきっと会ったら思い出すと思うんだよな」
言葉を吐き出すたびに、ルクスの深い部分で小さな熱が疼いた。
あの日の風の感触、涙の味、指輪の重み。
すべてが、昨日のことのように蘇ってくる。
サーラはルクスを見つめた。
「いいじゃねーか」
「え?」
「俺はそういうの嫌いじゃねーよ。運命ってやつか? お前が信じてるなら、それでいいだろ」
その言葉には、何か含みを感じた。
まるで「俺も似たようなものを抱えてる」みたいな影が、瞳の奥に揺れた気がした。
ルクスは何も言わなかった。
ただ、右手を差し出した。
「それじゃ、白い婚約者同盟ってことで、よろしくな」
「ああ、よろしく頼む。ま、そうそう会う機会もないだろうけどな」
サーラはその差し出された手のひらを包み込んだ。
偽りの婚約者同士が交わした、たった一つの本物の約束。
ルクスは再びフォークを手に取り、ステーキを切り分けた。
(……これでいい。俺は、あの子を待つ。サーラとは戦争が完全に終わったら、白紙にすればいい。それが白い婚約ってことか? まぁ名前は何でもいい。これで、全部丸く収まるはずだ)




