第12話
「全員お酒ですか?」
ルクスは手を挙げた。
「俺はまだ十五歳だ。果実水をもらうよ」
そしてサーラに向き直り、
「サーラたちは気にせず飲んでくれ」
「えっ?」
「勇者……お嬢様もまだ十五歳だ。何を言っている?」
サーラが言葉を詰まらせ、ラヴャーナの冷たい声が落ちて、静寂がテーブルを包んだ。
ルクスはなんとか言葉を絞り出した。
「なーんてなっ? 魔王の娘ともあれば未成年でもお酒くらいは飲んでもいいのかなーって? ほら、異文化だし?」
「なんか怪しいな……お嬢様、本当に二人は昔から?」
ラヴャーナの疑いの眼差しが強まる。
サーラがテーブルに身を乗り出した。
「もー! ルクスったらぁ! お茶目なんだからぁ!」
普段の凛とした魔王の娘とは思えない、砕けた甘えた口調。
ルクスとラヴャーナが「えっ」と固まった。
サーラはルクスの肩を軽く突いた。
「ルクスはこういうふざけたことをするんだよっ。可愛いところがあるだろ? そこに惚れちまったんだっ」
その目は「合わせろ、でないと殺す」と訴えていた。
ルクスは「分かった」とかすかに目元を動かして意思を示すと、
「はっはっは! すまないなサーラ! いつもの調子でやってしまった! 二人の間だけだったもんな! こういうのは!」
そのノリに合わせる。
(……地獄だな)
ラヴャーナは、給仕が注いだばかりの赤ワインをグラスごと一気にあおった。
「そうだったんですか! 疑ってしまい、申し訳ございません!」
彼女の両目から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「あのお嬢様が……このように立派に育って、嬉しいのです。幼少期はとんでもないじゃじゃ馬で、魔熊を狩っては走り回っていたあのお嬢様が……男性と逢瀬を重ねていたとは……!」
「ちょ、ちょっとラヴャーナ! あんまり大きな声で言うなって! それに、お前酒弱いんだからそれ以上飲むなよ!」
サーラがラヴャーナの肩を叩いて宥めようとするが、しかし彼女は涙を拭いもせず、鼻をすすり上げ、さらに熱弁を振るう。
「お嬢様は、それはそれは可愛らしゅうございました。それでいて活発で、書庫から盗み出した魔法書を発動して、魔王城を破壊したことも……。そんなお転婆だったお嬢様が……、おおおおーん!」
「ラヴャーナ! だからやめろって!」
ラヴャーナがおいおいと泣き、それを宥め続けるサーラ。
その横で、ディローダがボトルごとワインをラッパ飲みし、空にした。
「分かるぜぇ、ラヴャーナ……!」
いつの間にか彼女も両目から涙を流していた。
「子供の成長ってのはよぉ……嬉しいもんだよなぁ! うちの坊ちゃんも、こんな立派な男になって……! あんなちっちぇもんぶら下げて走り回るクソガキだってぇのによぉ……」
ディローダは酒に弱いわけではない。
ただ、飲むと感情の制限が効かなくなるタイプだった。
ルクスは額を押さえて囁いた。
「ディローダ、ラヴャーナを介抱してやってくれ。あと、そんな小さい頃に俺とお前は出会ってない! あと俺のは、ちっさくない!」
ディローダは立ち上がるとラヴャーナの腕を掴んだ。
「今日は二人の門出だ、朝まで語り合おう」
そしてラヴャーナの背中を叩き、バーカウンターの方へと向かっていった。
残されたルクスとサーラは、テーブル越しに顔を見合わせた。




