四話
「やっぱり、現場保存されているわよね……。あれだけの事件だもの、すぐに片付けるはずがないわ。」
ホールへ近づいてみると、我が家の警備隊が大勢集まっていた。
野次馬らしき人に囲まれていて、ホールがよく見えない。
「もうちょっと右……。いや左……?」
「カーラお嬢様……。正面から事情を話して帰ればいいじゃないですか。」
「それだとだめなのよ。疑いたくないけれど、もしかしたら、使用人に密偵が潜んでいたのかもしれないわ。」
料理に毒を入れられてコロリ!……となったらシャレにならないわ。
あるいは、私も両親と同じように……。
そこまで考えて、いやな考えを振り払うため、頭を横に振った。
ダメよ。弱気になっている場合じゃないわ。しっかりしないと!
「カーラお嬢様!お気を確かに!顔色が悪いですよ!」
「……大丈夫よ。ちょっと嫌な想像をしていたの。」
「ちょっと休憩しますか?この場所なら木に隠れていて、死角になっていますし。」
「やめておくわ。この真夜中の時間帯でこんなに人が多くいるのなら、後になるほど入りづらくなりそうだもの。」
どうやってホールに入ろうかしら……。
突風が吹いて顔を上げると、ちょうど木に引っかかっているものが落ちてきた。
「!これよ!」
身近に使えるものがあるじゃない!
「カーラお嬢様!?それで何をするおつもりで……?」
それを手に取って、アルミへと迫っていく。
「大丈夫よ。アルミ。そんなにおびえないで?」
「きゃぁぁぁぁぁ……。」
アルミの、声を抑えた悲鳴が真夜中に響いた。
♦♦♦♦♦♦
「カーラお嬢様ぁ……。本当にこれで行くのですか?私……私、他のいい案考えますから、ほかの方法にしましょうよ!」
「完璧よ!かわ……ふふっ。かわいい……わよ……くっ、ふふふっ。」
アルミに猫耳が似合っていて、久しぶりに心から笑えた。
「笑っているじゃないですか!」
私が見つけたのは、小さいころ使っていた、猫耳カチューシャだった。
伸び縮みする、優れものだ。
大人でも着用可能でよかったわ!
「これが屋敷にあるということは……まさかカーラお嬢様、今までも猫耳をつけていたのですか?」
「まさか。たまたま落ちていたのよ。この歳でつけていたら、ひかれてしまうわ。」
「だったら私はどうなるんです……!?」
荒ぶるアルミを落ち着かせる。
とにかく私が言いたいのは、
「メイド服に猫耳は最高の組み合わせね!」
「どこぞの変態みたいなこと言わないでくださぁい!」
♦♦♦♦♦♦
「……いい?手順通りいくわよ。」
「……はい……わかりました……。カーラお嬢様のいうことですもの。頑張りますよ!」
ホールへ忍び込む手順を話すと、アルミも最後にはしぶしぶうなずいてくれた。
アルミ、少し自棄になっているわね。
無理をさせてしまってごめんなさい。
でも、これはあなたにしかできないことなの!
アルミがごほんごほんと咳払いをした。
「にゃ、にゃーにゃー。」
「もっと元気に!頑張って!」
「にゃーーーー!」
「おい、何かいるぞ!」
「誰か確認しろ!」
聞きつけた野次馬が騒ぎ出す。
ざわざわと混乱が広がっていった。
よし、かかったわね!
今よ!と小声で言うと、アルミが顔を真っ赤にしながら目にも留まらぬ速さで走る。
周りの木がざわざわと揺れて、野次馬の不安をさらにあおった。
騒ぎ出した野次馬を止めるために、多くの警備員達がホールを離れた。
警備員が音の出所を必死に探し始めた。
アルミ、その調子よ!
入り口にいた警備員の目が外れた瞬間、私はホールへ滑り込んだ。
♦♦♦♦♦♦
ホールの内部へ入ると、鉄のような血の匂いが鼻をつく。
悲惨な姿を見せないためか、両親の生首に黒い布がかけられていること以外、現場は何も変わっていなかった。
まるで、あの夜から時が止まったようね……。
こみあげてくるものをぐっと飲み込み、音をたてないように怪しかった床へ近づいた。
「噓でしょ……?」
呆然と呟く。
素材が違う床は、消えていた。
「……っ、確かにここにあったのに!」
必死になってほかの場所も探しても、素材の違う床はどこにもない。
いつの間にか、素材の違う床があったはずの場所へ戻っていた。
私の勘違いだったの?
アルミにも手伝ってもらったのに、何も進展がないなんて!
手がかりがある、と希望を見せるために私の心が見せた幻だった……?
これが唯一の手掛かりだったのに……!
力が抜けて、両膝が床へ着いた。
意味もなく空虚を見つめる。
気持ちと同じように、視線がさがっていく。
机の下を見て、閉じそうになっていたまぶたを開けた。
視線が捉えたものは、私がちょうど膝をついたときに見つけられる位置に、わざとらしく置かれた真っ白な便箋だった。
見つけた。唯一の手掛かり。
震える手を伸ばして便箋を手に取ると、落とさないよう大切に服へ隠した。
敵の罠だとしても、なにも手掛かりがないより、ずっとましだわ。
皮肉なものね。これが希望になるなんて。
アルミのもとへ戻らなくては。
まだ希望は残っていたから。
読んでくださった方、ありがとうございます!
まだ始まったばかりのカーラの物語ですが、見守っていただけたら嬉しいです。
もし少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや感想などいただけると飛び上がって喜びます!




