三話
「カーラ。……少し落ち着いた?」
従姉妹のカロルが、しばらくたった後にハンカチを差し出してくれた。
「……放っておいてくれてありがとう。」
「どういたしまして。……泣いているときは放っておいてほしいかなって思ったのよ。私もそうだから。」
「カロルも?そういえば、私とカロルは一緒と言っていたものね。」
「……うーん、そういう意味でもあるわね!」
眉毛をちょっと寄せて、微妙そうな顔をした。
「ちょっと納得いっていないような表情ね?」
「あら、そうかしら?」
「何年一緒にいると思っているの?」
「そうね!カーラとは長い付き合いだもの!」
「カロルの考えていることなんて、お見通しなんだから。」
カロルがほんわかと笑って言う。
「私だってカーラの思っていることがわかるわ!ここはどこだろうって思っているのよね?」
「えぇ。それは思っているわ。」
「私、カーラと同い年だけれど、あなたより一足先に成人したじゃない?この家がもともと気になっていて、成人した日に私の名義で買ったの!買っておいてよかったわ!こうして使うことになるとは思わなかったけれど。」
それはそうよね……。
「ここにずっといればいいわ!……でも、カーラは優しいから、きっと出て行ってしまうのでしょう?」
寂しげに、ぽつりと言った。
「ありがとう。……たぶん、いつまでもここにいたら、私はぬるま湯につかっているだけになってしまうわ。カロルの足かせになってしまう。」
冷たくも熱くもない、この離れがたい暖かさに浸るだけじゃ、ダメだ。
立ち止まっているだけでは何も変わらない、と。
憧れているカロルがそう言ってくれた。ようやく、人に頼る覚悟ができたの。
まずは会場へ戻って、あの怪しかった床を見よう。
「私には、やるべきことがあるはず。なにより、私がやり遂げたい。……ここに来て改めてそう思えたの。」
「その『やるべきこと』は、私には教えてくれないのね?」
「……えぇ。今はまだ。」
「……あなたならそう言うと、わかっていたの。」
カロルは力なく笑った。
♦♦♦♦♦♦
アルミとも再会した。
再会したとたん泣かれてしまった。私が急に倒れたので、死んでしまったように見えたらしい。
本当にごめんなさい……。
アルミー。泣かないで~。
♦♦♦♦♦♦
いつまでもカロルに甘えてはいられない。
私が寝ている間に、きっといろいろなことが起きているはず。
最後に一目見てから行こうと、外へ向かう足を止めた。
カロルのいる寝室へと向かう。
カロルは、すやすやと気持ちよさそうに寝ていた。
「カロル……今までありがとう。さようなら。どこかで会えたらうれしいわ。」
小さな声でそう言い、そっとお世話になったことの感謝を記した手紙と気持ち程度のお金を置いた。
あふれてくる涙を床に落とさないように気を付ける。
アルミと私は真夜中に家を出て行った。
「アルミ、お金を貸してくれてありがとう。今は無理だけれど、必ず返すわ。」
「いえ!私はカーラお嬢様に助けられて生きながらえた身。何があってもあなたの味方であろうと決めているのです。」
「アルミ……。ありがとう。」
感極まって軽く抱き着くと笑って抱き返してくれた。
「あらあら。甘えん坊さんなところは残っているのですね。」
「もう……。」
すねていることをアピールしたくて、私はアルミから離れて、ツン、とそっぽを向いた。
クスクスと笑い声が聞こえてくる。
よかった。笑ってもらえたようね。
「……あの、差し出がましいようですが……。カーラお嬢様。本当にカロル様には置手紙のみでよかったのですか?」
カロルについて、口に出すか迷ったのだろう。
「手紙がいいのよ。きっと。そうじゃないと、決心が揺らいで、あのまま住んでいたくなってしまう。」
「……そうですか。やっぱり、カーラお嬢様はご自分のお屋敷の方がいいですよね。」
「……そういうことよ。」
少しずれているところも、アルミの美徳……かしらね。
「……ありがとう。いつも本当に助かっているわ。そして、ごめんなさい。」
アルミ、あなたを巻き込んでしまって。
アルミだけではない、カロルや、あのパーティーにいた人たちも。私がこれから何をしようとしているか知らないあなたたちまで、これからも巻き込もうとしている私をどうか許してね。
「………?はい!」
切り替えるために、両眼を閉じて深く深く息を吸う。
全ての息を吐き切り、ゆっくりと両眼を開けた。
「……行きましょうか。」
悲惨な出来事が起こった、あの会場へ。
♢♢♢♢♢♢
「あの、カーラお嬢様。雰囲気を壊すようで申し訳ないのですが、もう現場保存されているのではないでしょうか?」
「確かめたいことがあるの。あの床の素材だけ、明らかに違った。それが罠だったとしても……少しでも手がかりがあればいいの。」
「カーラお嬢様……!わかりました。カーラお嬢様には指一本触れさせません!危険から守って見せます!」
「ありがとう。頑張りましょう。」
「はい!……ところで、どうやって入るおつもりでしょうか?」
「監視の目を潜り抜けるのよ。あなたならいけるわ!」
「えっ。」
「ふふっ。冗談よ。とにかく、今は進むしかないわ。」
アルミはほっと胸をなでおろした。
アルミの気が少しでもまぎれればいい。
たとえ、目の前に真っ暗な深淵があろうとも。
それが、私が選んだ道だから。




