《エキシビジョンマッチ》クソガキVS傭兵4
「カテナ、カテナ!」
腰を抜かしそうになりながら今の今まで絶命の危機に瀕していたオドメイドの肩を叩く。
「……モンテルさま?ッ!私は!先程の連中は⁉お怪我は?大丈夫ですか?」
気が付くと同時に何かに弾かれた様に立ち上がり、主人の心配をする。先刻まで眠る様な事態に陥っていたのは自分だというのに……。
「大丈夫!先生が助けに来てくれた。ちょっと疲れて寝ちゃってるけど、勝った!
先生が任せてくれたもう一人の悪いヤツは……僕が倒した!」
「それは……」
驚きと感心の表情を浮かべ、すぐさまそれが怒り混じりの不安に変わる。
「モンテル様、何故、逃げて下さらなかったのですか?」
「そりゃぁ、僕だけ逃げたらダメだろ。」
「いいえ、いいえ違います、モンテル様。逃げて下さい。誰よりも何よりも、自分を大事にして下さい。他の誰かは捨て置いてでも、ご自分を大事にして下さい。」
クソガキの後ろに広がる巨大な落とし穴と自分の無傷を比べて、クソガキのやったことを察したな。
「私はただのメイドで、貴方に仕えているだけです。代わりなら幾らでも居ります。
けれど、貴方は貴方だけです、モンテル様。どうか自分のことを大事にして下さい。どうか、どうか!」
クソガキは涙を浮かべるオドメイドを見て、何か言いたげだったが、それを呑み込んで真っ直ぐこう言った。
「僕が選んで自分の側に置いている自慢のメイド、それが君、カテナだ!代わりなんていない!
自分が選び、自分に仕えてるメイドの一人や二人、守れなくて何が貴族だ、何がゴードン家だ、何がモンテル=ゴードンなんだ。
僕はモンテル=ゴードン、君の主人だ!なぁカテナ、君の主人はたった一人の従者も守れないほど、非力なのか⁉僕はそんなに不甲斐無い奴なのか?」
オドメイドがその言葉に、止まる。
「いいえ、いいえ!私の主、モンテル=ゴードン様は自慢の主です!」
その言葉に嘘は無かった。真っ直ぐにクソガキを見ていた。
クソガキはそれを見て、深呼吸した。今度は、顔を赤くして。
「だから、僕は、君を捨てない!これからもずっと、ずっと!
だから、カテナ、君が良ければ、良ければだけど、どうか、僕の……ずっと……」
大きく揺らいだ。
油断大敵という言葉がある。
良い言葉だが、これを常々言い聞かせる者は感心しない。
それ即ち、常々戒めねばならない慢心が内にある時なら、人は殺せると信じてしまうのだから。
「くだばれぇ!」
落とし穴から血だらけの傭兵が這い出てきた。その目には殺意。そしてその手には、火。
『大火球』
クソガキとオドメイドを焼き尽くす火が襲い掛かる。
クソガキは背を向けている。
火葬の必要すら無くなる火力だな。
「先生なら無言でやるよ。」
クソガキがオドメイドを抱き寄せる。
『地形操作』
傭兵とクソガキ達を隔てる様に壁が生える。
抱き合った二人が辛うじて隠れる大きさ、形状を保てる限界まで水分を多く、厚く、頑丈に。
そして、傭兵側の壁は曲線を描いていた。
炎が壁に直撃する。壁は蒸発音を響かせて霧を吐き出す。
表面がひび割れ、しかし崩れない、砕けない、役目を果たし、防ぎ切る。
そして、炎は弱まりつつも壁に阻まれ逆流し、魔法を放った本人へ。
「ふざけるなああああああああ!あっち!あっ!アッヅァ!ゴゲ……」
落とし穴へと飛び込むが、頭の先が炎に舐られる。
受け身に失敗して全身を落とし穴の底に叩き付け、今度こそ沈黙した。無論生きてはいるがね。
壁の向こうでは二人が固まっていた。
炎の余波は収まり、霧が徐々に晴れていく。
シェリー君は他所で眠っている。人狼も眠っている。ここに見えるのは二人だけ。
抱き締めていた状態に気付き、ハッとしてクソガキがオドメイドから離れる。
そして、霧の中、正面にいるオドメイドに向かって、覚悟を決めた。
「カテナ、君が良ければ、良ければだけど、どうか、僕の側にずっといて欲しい。
まだまだだけど、頑張っていくから、どうか、ずっと見ていて欲しいんだ。」
クソガキが言い切った。
さて、それに対するオドメイドの答えはといえば……
「きゅぅ…………」
壁が形成された段階で、というか、抱きしめられた段階で気絶していたよ。
霧が晴れると同時に目を回したオドメイドがちょうど倒れた。クソガキが何とか受け止めたがね。
「………まだまだかな。」
クソガキの顔から赤みが引いて、笑った。
クソガキと傭兵の闘いはクソガキの勝利という形で終わりを告げた。
決着ゥゥーーーッ!!
そしてここからエピローグです。
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