未熟者故、悪しからず
前回のあらすじ:シェリー君覚醒。淑女の餞別を自分のものとした。そして二人を無事救助しました。
淑女からの餞別は、厳密に言えば『魔法』ではない。
同じ魔法をより効率的に、より強力に行使するための『技術』や『コツ』と呼ぶのが相応しい。
では、その技術あるいはコツの正体とは何か?
魔力とは物質とエネルギーの狭間にあるものとされている。故に表現として相応しいかは議論の余地はあるが、あの技術の正体は『魔法行使の際に消費する魔力を圧縮・制御する技術』とでも言えば伝わるだろう。
エネルギーの密度を上げて熱量と精度を上げる。
今まで木炭を使って動かしていたものを同体積のガソリンでやる訳だ。それはそれは大きな差が生まれる。
とはいえ、問題もある。
木炭を燃やしていた炉にガソリンを放り込むとして、それを放り込まれた炉は吹き飛ばないのか?という問題だ。
例えば、もしこの技術を見様見真似でクソガキが実行したら確実に吹き飛ぶ。
それは魔力量という問題もあるが、それ以上に魔力の制御能力が欠けているという点が重要な要素になってくる。
急に何の準備も無しに魔力を爆発させれば無事では済まない。というより、シェリー君が勘違いしてやっていた『爆発的に魔力を使う』がそれに当たる。
膨大な魔力を圧縮。四方八方に飛び散らせるあの手法は本来危険極まりない。
シェリー君の魔力が少なく、制御能力に長けているから爆発を咄嗟に安全な爆発に変化させ、魔力の無駄遣いで済んでいただけ。
だが方法は途中まで合っていた。
魔力を圧縮、それまでは正解。
だが正解は、爆発させて1/4~1/8に飛ばすのではなく、爆発寸前のそれを絶えず制御し続け、魔法に変換するというものだ。
察した者も居るだろう、この手法が有名でない理由は絶えず制御し続ける点にある。
兎に角、高い技巧が必要。そして、大半の連中はそんなことをするくらいなら魔力を多く込めた方がマシ。
魔力が少なく制御力に長けた人間でもなければ、扱っても意味が無い。
では、魔力が少なく制御力に長けた人間が扱うなら、どうなるか?
人狼の頭から出てきた腕がこちらを狙う。一つはシェリー君、そしてもう一つはクソガキ。
『地形操作』
薄い土壁が弾丸とクソガキを隔てる。弾丸は土壁に弾かれて火花を散らす。今までならここに『強度強化』を上乗せする必要があったがそれが今は無かった。そして早い、速い。
強度の上昇と発生速度の上昇、魔法自体の速度も上昇していた。
四方八方に散るはずのものが散らず、爆発的な力に指向性が生まれている。
より強力な魔法に変わっている。そして……
シェリー君の脳天目掛けて飛来した弾丸を指先でなぞる様に流し、上へ。
より精密な魔法に昇華されている。
制御能力は元々高かった。だが、今までの力を制御しても上限が上限。たかが知れていた。
今回、事実上の出力が上がった事で、高過ぎた制御能力が活きるようになった。
「なんだ、お前?」
首を傾げることはない。だが、腕を傾げる。
「なんだと聞かれましても、そうですね……今は敢えてこう言いましょう。」
微笑んでお辞儀をする。懸念が一つ消え、餞別の思いを受け取り、晴れやかな表情だった。
「私の名前は、シェリー=モリアーティー。淑女には程遠い未熟者で御座います。」
お辞儀の最中に弾丸が飛んでくる。今度は後ろに憂いは無かったので、躱した。
『身体強化』
肉体への負担や如何に?と思ったその懸念は正解だ。出力が上がるのだ、当然肉体への負担は上昇している。
だが、今まで以上に乱れは無くなり、何より出力上昇に伴い短期決戦を仕掛けやすくなった。
弾丸を躱した直後にそのまま肉薄し、頭から伸びる手が持っていた銃を叩き落とした。
手は反応しきれていない。
「未熟者故、長くはお付き合いできません。どうか悪しからず。」
淑女は魔力が有り余っている上にある理由から制御能力も非常に高いので、高い精度でいつもこれをやっています。つまりシェリー君以上のパワーでシェリー君以上の精密動作性を誇ります。星の白銀ですかね?
シェリー君が淑女から渡されたものを直ぐに理解出来なかった理由の一つに、そもそも淑女の魔力量が多過ぎて、精密性か出力か問題点が判別出来なかったから、というものがあります。そこも込みで悩み考え判断しろというスパルタです。




