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1922/1936

前景

 消えた。

 陽動のために子どもに向けた他に、もう一丁用意していた。

 非常に口径が小さく射程も短い。魔法による強化無しの肉を貫いて心臓に到達して止まるのがやっとの隠し弾。

 動揺した瞬間を狙っていた。標的から銃口を外してはいない。おかしな言い方だが目を離してもいない。

 標的が消えた。

 同時に視界の端で、子どもとメイドも消えた。

 そうして辺りを見渡して、三人を見つけた。

 背後、10mも向こうに、子どもとメイドを担いだそれは立っていた。

 何が起きたかは解らない。けれど推測は出来る。

 標的の足元には土埃が舞っている。

 弾丸が放たれた後まで見えていた。それが急に消えた。

 そして、弾丸は命中こそしなかったが、狙った軌道を描いて、そのまま後ろの樹木に着弾している。

 『弾丸より速く動き、人質二人を確保。そしてそのまま今立っている場所まで移動した。』

 そう結論付けることになる。


 自分が何をしたかは解ります。

 弾丸を追い越して、二人を抱えて、距離を取った。

 自分がどういう過程を経てここに立っているかは理解しています。

 そして、自分がどういう過程を経てその結果に到ったかも理解しています。

 これが一体何なのか、私はこれをかつて一度だけ、教わったことがありま(・・・・・・・・・・)()

 あの時、異常な魔力を使って『身体強化』を発動しようとして、それが上手くいかずに爆発することを知っていた私はそれを咄嗟に抑え込もうとして、爆発寸前のそれが、違う形に変わったのです。

 気体の様に所在無さ気だった霧散する力が、流動的な液体のように変わって激流を成したのです。

 そしてその激流は魔法になる時、同じものをより鮮明に、鮮烈に、強力な魔法に変えました。

 静かで、しかし激しい、不思議な感覚でした。

 しかし、私はそれを知っていました。

 何とかして自分が前に出て弾丸を止めようとした時、走馬燈の一つがこう言ったのです。

 『それは、淑女ではありません。』

 そうですね、確かに、たとえ私が犠牲になっても二人は助けられません。

 自分が無事で、他を救う。それが出来なければ淑女とは言い難いですね。

 ああ、フィアレディーから頂いた餞別は、これだったのですね。


 やっと辿り着いた。

 完成系は既に知っていた。能力自体は足りていた。手法に限りなく近付いていた。

 けれど律する余り、直前で誤った方に舵を切り、限りなく正解に近い誤りに到着し、しかし正解に到達出来ずにいた。

 それを可能にするために必要だったものは、己では決して行わない事を、己が最も得意な形で出力するという矛盾だった。

 極限状態で僅かに乱れた制御と、その中でも全力を尽くした結果、成った。

 『律するあまり己を見失う勿れ』

 淑女がこれを渡した理由、意味と言っても良いだろう。

 先ず、『力でなく技で抗う者に相応しい武器を。』というのは理解出来よう。

 だがもう一つ『もっと先に手を伸ばせ。』という隠れたメッセージがあった。

 己の限界を知り、律し、その上で限られた手札の中で勝利を掴む……カードゲームならこれは正しい。

 だが人は違う。カードが無いなら新たに作るという選択肢がそこにはある。

 シェリー君は身の程を知っているし、限られた中で工夫していた。

 悪い言い方をすれば、最初から諦めていた。

 だから、清流をそのままに、更に静かにすることで研ぎ澄まそうとしていた。

 今ある力を圧縮し、小さくとも岩をも穿つ激流を作り出そうなどとは考えなかった。

 それが可能であっても、知らなければ、試みなければ出来る日は訪れない。

 だから、かの淑女は手を引いた。

 敢えて何も言わず、敢えて乱暴に、しかし完成形を示して見せた。

 考え、苦悩する余地を。

 力の奔流の荒々しさを。

 手本とする形を。

 餞別として渡したのだ。


 ブックマークが一気に増えました。ありがとうございます。

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