足りないあと一歩を
前回のあらすじ:隙を突かれてクソガキに銃口が向いた。現在発砲済。
己を律するとは美徳とされている。
本能のまま暴れることを良しとせず、理性を以て人であろうとするその様を称賛する。
だが、律することとは即ち、止める事に他ならない。
欲望を、衝動を、そして願いを叶えるための行動さえ止めかねない。
律する事を少し止めてしまえば届く場所に、届かずに苦悩する。
そんなことが起こり得る。
律することが美徳だと思うあまり、大空へと飛び立つ翼を己で捥ぐ。
なんとまあ、非合理的なものだ。
自分を律して息の根まで律するくらいなら、一度好きに暴れてみるのも良い。
自分がどこまで届くのか、自分はどれほど無力なのかを知ることが出来る。
尤も、節度を犬に喰わせてそれをやってしまえば悪党側なので悪しからず。惨い末路から断崖絶壁に向かって落ちたくなければ節度を持ってやることを推奨しておこう。
息を吐いてしまった。油断していたのだと思う。
相手は未知の性質を持ち、殺意を持ち、狡猾で、ここまで自分を騙して、自分一人だったら敵わない相手だということを忘れて、止められたと驕った。
もう『助けた』と過去のことだと思って視野が狭くなっていた。守るべき、守ってこそのこの闘いだったのに。
その結果、取り返しのつかないことが今……いいえ、これから起きる。
弾丸は既に発射されている。
狙いは頭。先程より小さい口径とはいえ当たれば頭が無くなる。
モンテル君は対応出来ない。魔法で防ぐのは不可能。
『C.D.E.』で無くなった心臓と肺を作ったことはある。けれど脳はそうもいかない。
予め構造を知らなければ『C.D.E.』は意味を成さない。書庫にあったボロボロの本の様に、内容を知らない状態で出来るのは白紙のページを作るだけ。
そうなってはもう、別のもの。飛び散った頭を繋ぎ合わせてもそこに出来るのは『モンテル=ゴードン』というタイトルの白紙本。
弾丸を止めないと。どうやって?
『身体強化』で追いつく。
今の実力では追いつけないことは自分が一番知っている。間に合わない。
『H.T.』は論外。
自分の肉体よりも反応が遅く、発動さえ出来ない。間に合わない。
『地形操作』で壁を作って防ぐ。
あの口径を防ぐにはそれなりの厚さと強度が必要。間に合わない。
走馬燈の様に記憶が巡る。今まで自分が教わったもの全てがあの弾丸を止めようと試みるが、全て最期の光景は同じ。
間に合わない。
止めないと。
教授はあくまで私の教師としてあると表明している。助けは来ない。
私の浅慮と無力で初めての教え子が死ぬ。
『身体強化』
体が勝手に動いている。けれどだめだ、私は弾丸より遅い。追いつけない。
動かないといけない。諦められない。死力を尽くしてでも全てを失ってでも守りたい。
走馬燈が相変わらず頭の中で浮かんでは消える。しかし、弾丸に追いつく私は映らない。
『身体強化』
大量の魔力を流し込む。無理だ、それは何度もやって失敗している。
間に合わない。もっと速くするためにはもっと力を込めないと。
それでは遅くなる。落ち着いて素早く、冷静に制御しなくてはならない。
二つの相反する動きが一人の中で矛盾したまま動く。
魔力をありったけ乱暴なまでに込める動きと、魔力を水鏡のように制御する動きがぶつかり合う。
しかし、矛盾のままでは到底追いつくことは出来ない。
弾丸は相変わらず遠い。そして終わりに近付いていく。
『せめて、せめてあと一歩、私が割って入ることができれば。』
そんな考えを抱きながらも走馬燈は巡る。
そうして、一つの光景が、その言葉を否定した。
『 、 。』
ああ、そうでしたね。
走馬燈が終わり、そうして、消えた。




