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正義のヒーローなんていない

 前回のあらすじ:『成功者なのにわざわざ誘拐事件を起こすなんておかしい。』とシェリー君が指摘すると、本人も知らぬ間に腕が銃になった人狼がシェリー君に向けて発砲した。

 唐突だが、私とシェリー君には大きな差がある。

 幾つかあるが、その内の一つが反射速度にある。


 問題だ、私がシェリー君より圧倒的に経験で劣っている分野がある。それは何か?

 シンキングタイムは各々で設けて欲しい。


 正解は『魔法』だ。


 私の知識に『魔法』はあるが、こんな風に日常に溶け込むほど一般的で実用的なものでは決してなかった。あくまで想像上の産物という扱いだ。これが生命の脅威となる事は前提に無い。

 故に、対『魔法』の経験が乏しく、『魔法』を後天的なものとして認識している私は、この世界で極めて一般的な『魔法』に咄嗟に反応出来ない。

 今、咄嗟に反応している様に見えているのは『魔法』以外の知識から類推して補っているから……これは単なる張りぼてに過ぎない。

 対して、シェリー君は違う。

 生来、日常に溶け込んだ魔法を認識し、触れ、学び、その危険性を、身を以て経験してきた。そこに想像上の産物という認識が挟まる余地は無い。生命の脅威だと十分に理解している。

 対『魔法』の経験が豊富で、『魔法』を先天的なものとして認識している。

 とはいえ、私の様に『魔法をどう使うか?』という点においては経験不足なので、私より一手以上反応が遅くなっている。


 だから今回の様に咄嗟に泥中から銃口が向けられ、発砲した際には当然判断が遅れる。

 銃声が鳴り響く。

 シェリー君はそれを咄嗟の判断でH.T.で受け流していた。

 『銃』と表現しているが口径は巨大でまともに『地形操作』やH.T.で受けていたら臓器ごと貫通が有り得た。

 「『銃は子どもさえも容易に殺人犯に変えることが出来る魔法の道具だ。』という言葉を教わっています。

 銃に対して如何に判断が遅れても、着弾前なら如何様にも対応出来るように心掛けています!」

 弾丸が明後日の方向へと飛び、木の幹に風穴を開けた。

 血の気が引き、恐怖で息を吐く。

 ギリギリだが及第点の対処だ。


 さて、二つ目の問題だ、シェリー君が私より圧倒的に経験で劣っている分野がある。それは何か?

 シンキングタイムは各々で設けて欲しい。


 正解は『悪意』だ。


 シェリー君もあの学園で悪意に曝されてきた。とはいえ度を越した悪意ではあったが、所詮、小娘の他愛無い悪意。数はあってもたかが知れている。

 君には経験があるかね?扉を開けた途端に問答無用で銃口を向けられる経験が。

 私にはある。ちなみにそうなった理由は殺し合いをするほどの仲の、とある探偵の事務所にアポイントメント無しで向かった結果だ。

 ちなみに銃口を向けられた時に『君は頭の良い人だと思っていたが、どうやら猿だったらしい。』と私は返しておいたよ。

 とまぁ、そんな余談はさておき、だ。

 シェリー君は圧倒的に『悪意』が足りていない。

 人が相手を憎み恨み呪う時に行う邪知暴虐の数々。純然たる悪意の終着点がどこまで人の善性に唾吐くものか解っていない。

 どこまでの手段を選ぶか解っていない。

 あんな大口径の大砲擬きで相手の胴体を撃ち抜くなんて、温過ぎる。


 恐怖で息を吐いてしまった。

 だから、次の相手の一手を見た時、息を呑んでしまった。

 拘束された人狼の、唯一自由になった部分、頭。それが真っ二つに割れて中から腕が飛び出した。

 その手にあるのは一丁の単純な構造の銃だった。

 銃口が頭を狙う。

 「え?」

 向けられて虚を突かれ、動けなくなった。






 標的は、クソガキだった。


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