人も獣も嘲笑う
前回のあらすじ:シェリー君が相手の再生?修復?能力の特性を見抜いて泥で人狼を拘束した。
「……」
動こうと藻掻く。だが、そう上手くはいかない。
『強度強化』
泥の中、体の関節という関節部分の周囲にある泥を強化して固め、そこから地面に硬化した泥を柱上に伸ばして拘束している。
幾ら力で勝ろうともそれを十全に振るうための体勢になれなければ意味が無い……という考えだ。
「意味が、解らないのですよ。」
「……」
先刻まで対話を拒絶していたシェリー君の言葉に対して今度は人狼の方が何の言葉も発さなくなった。
「貴方の前の自己紹介が全て事実だとすれば、貴方は十分成功者と呼べる部類の方で、何らかの理由で正体が露見しそうで困っているという訳でもないとお見受けします。
そんな貴方が貴族の子息を、わざわざここまで手間をかけて誘拐するなんて、なんの得にもなりません。
どころか、兄弟を脅迫したことで貴方が人狼であることが露見したことで、積み上げてきた肩書と信頼、財産全てを失うという損失をこれから被ることになります。
貴方がこんなことをする必要性は無かったはずです。寧ろ、するべきではない。
それに、振る舞いや計画性は用意周到で緻密で悪意が有るのに、その動機部分があまりに杜撰……。
矛盾しているのです。成り立っていません。おかしいのです。」
頭の中が沸き立つように痛む。
無意味な行動。無駄な行動。完全な愚行。そんなことをしたいなんて思わない。
兄弟に情があった?今の連中の立場に嫉妬した?そんなことどうでもいい。
フローヴ=ナヌンは『人』として、今まで成功してきた。現状も揺らぐ兆しは少しも無い。
では、自分は今、何故こんな事をしている?
「人が悪を為すのに理由は要らない。」
誰かが喋った。これは、私か?
頭の奥が焼けるように、刺されるように、潰れる様に痛い。
「厄介な邪魔がいたものだ。もっと良い体を選ぶべきだったな。」
痛みで声が出ないはずなのに、自分の体がはっきりとそう声を出していた。
自分の体が勝手に動き出す。関節を固められて動けるはずが無いのに右腕から何かが引き千切れる音と何かが折れる音が絶え間なく聞こえ、泥の中から飛び出す。
「ぁ……」
己の意志で喉からかすれた音が出た。
泥の中から出て来るのは自分の腕のはずだ。それ以外に無い。現に泥から這い出た感覚は有った。
けれど、泥から飛び出したのは灰色の体毛に覆われた鋭い爪を持つ獣の腕ではない。
か細く爪も体毛も無い貧相な人の腕でもない。
そこにあったのは真っ黒な鉄。
筒状の内部に螺旋が彫られ、轟音と共に人を殺すものがそこにあった。
銃声が鳴り響いた。
腕が焼けるようだ。
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