形振り構わず形変わり
体が羽の様に軽い。
相手がゆっくり動いて見える。
痛みはない、恐怖も無い。
清々しい気分だ、全ての先が見える様な万能感に溢れた思考があって、それを十全に実現出来る体があって、嗚呼、それでもなお手強い。
全力全開。蛇口を全開したような状態で暴れる今、愉しくて楽しくて仕方ない。
嗚呼、爽快だ。
一体これはなんだ?
今、自分は快楽に溢れている。
全身を殴打されて、振り回されて、焼かれて、止めとばかりに爆風で目も耳も爆風で壊されて全身ズタズタ。
それでも苦痛を感じていない。
腕が千切れそうになっていた気がする。それでは都合が悪いからと、粘土人形の腕でもつける様に戻した。戻った。
おかしいな、人狼の体は頑丈だが、そこまで都合良く頑丈には出来ていないはずだ。
頭ではそれが解っているのに、その筈なのに、千切れかけの腕がそれで元に戻ると思っていた。いや、そんなことは無いのにそうすれば戻ると思っている奴の動きをしていた。あれ、自分の腕はこんなものではなかったか?
いつも変身している時の腕よりも、本当の腕よりも、二・三倍太い気がする。そんなことはない、こんなものだった。
爪が樹木を切り裂き、音を立ててそれが倒れていく。
魔法を使っている相手に純粋な足の速さで回り込んでいる。
体毛が空を切る石を弾く。牙が岩を噛み砕く。
気分が良い。最高だ。けれどもっと動ける。もっともっと暴れたい。空腹だ。
ああ、そこに活きの良い血肉がある。大した量じゃないけれど、美味そうだ。
体毛が逆立つ。全身の筋肉が躍動する。血管がその内で暴れて熱い血を巡らせる。
違和感が頭の奥底にある。自分がやっている事としてあまりに不自然で奇妙でおかしいと理解している。
けれどそれがどうでも良いほど今が素晴らしく輝いている。
ああ、世界が極彩色。けれど赤が、赤色が足りていない。
「向こうもなりふり構わなくなり始めたな。」
手足の太さが明らかに変わった。内側で風船でも膨らませたのかと思うほど急激に太くなり、そしてその膨張は風船のように空ではないことは木を薙ぎ倒す膂力で明らかになった。
爪が伸びた。といっても、日々伸びる微々たる長さの話をしていない。指の中に仕込み刀を予め差し込んで、それを引き抜いたかの様に、急激に、別物に変わった。爪というより立派な刃だ。
牙だって似たような急成長を遂げた。なんだ?成長期か?それともコイツは実は人狼と鮫のハーフだったのか?
体毛は剛毛というより針に近くなった。先刻から下手な『身体強化』で殴りつければ血だらけになりかねない強度に変わった。無論、その血は殴った側のものだ。
目の焦点が合っていないな。だが動きの精緻さは未だ失われていない。
これは素の能力か?それともそこだけ活かす様に動かしているのか?
何にしても、何かが文字通り『形振り構わず形変わろうとしているな。




