私に許されたたった一つの淑女的方法
「シェリー君。」
「なんでしょう?」
私の声色から異常事態を察した。この状況下で呑気なことをしていたら今頃死んでいるから、当然といえば当然か。
「これより、相手を人狼だとか生き物だとか、そういった博愛主義で侮るな。私を相手していると心得て、全力で殺すんだ。」
「………………」
笑い事じゃない。屋敷で出会った足止めもそうだが、明らかにその辺の猫を被った小賢しい小悪党風情が用意出来る代物じゃない。
これもこれで在野では十分厄介な悪党だが、村一つ町一つ、良くて都市一つ壊すのが関の山レベル。先刻の自己紹介通りの肩書なら、このレベルに達するには金も知識も到底足りない。後ろに何か居るな。もっと大きくて厄介な何かが。
さて、面倒だ。
頭を潰してなおそれを即時修復するのは明確な『未知』であり、『脅威』だ。『反罪術式』は同じ様に頭を潰されていても直せるには直せるが、己の頭を潰されたらこうも上手く、即時修復は困難。何せ直すための術式を生み出す頭が潰されては、仕込み無しでは術式の段階で破綻するのだから。
未知という神秘を引っ剥がしても十分な危険性。
「業腹だが、これは『未知』だ。私の理解が及んでいない。そして、今の有り様を見て解る通り、あれは『格上』だ。」
「…………」
「知っての通り、殺し合いの場に在って『生かす』・『殺す』を選べるのは圧倒的な強者のみで、絶対的勝者のみ。
弱者が仏心や慈悲なんて持ち出しても肉の的になるだけ。
今回に至っては後ろに二人、君にとっては守るべき者が居る。」
笑えるだろう、『足腰のまともに立たない足手まとい二人を守りながら未知の格上を相手にする』だなんて、分の悪い戦いだ。
「人質を置いて逃げるなんてマネは決してしない。それは解っている。
となれば、二人を連れて撤退する……ことが困難なのは知っての通り。何より警備情報が筒抜けの状態で知っている奴をみすみす逃すのは最悪手。次は我々全員の命が無い。
解るだろう。君に許された方法が何なのか。
それならば全員屋敷までゆっくり逃げられる。次を警戒して神経をすり減らす必要もない。我々の安全は守られる。」
揺らぐ瞳孔が、静まった。
「彼を止め、解明する。その上で私が制圧し、凱旋する。
それが私に許されたたった一つの淑女的方法です。」
こう焚き付ければ、当然こうなる。
「相手が未知であろうと、格上であろうと、それは私の在り方とは関わりの無い事。
何より、未知で格上であることが必ずしも強者・勝者であるとは限らないのではありませんか?」
「その通り。未知で格上であっても弱く敗れることは幾らでもある。」
「それが聞けて安心しました。
では、私は私のやり方で、二人を助け、目の前の方に私の在り方を証明してみせましょう。」
「楽しみだ。」
ブックマークありがとうございます。
『反罪術式C.D.E.』:致命傷・致命的疾病・猛毒……生きているなら(心肺停止直後含め)幾らでも蘇らせることさえ出来る究極の魔法……に見えますが、原則マニュアルで物質を分解・再構築するので頭が回らない状態では不発になります。簡単な攻略法は教授と同じで『狙撃で即死させる』。




