囲の中に理外有、人狼の中に化物有
スバテラ村で起こした爆発、あれと同様の現象だ。
あの時は『犯罪術式』なんて使わずに『水流操作』や『気流操作』の延長で行ったが、今回はもっと手早い方法で行った。
以前は植物もどき相手だったので灰が辺り一帯に散らばるに留まっていたが、今回相手にしたのは動物。体の表面や呼吸器系は焼けてバラバラ、衝撃で心臓が止まっている可能性がある。
だが問題無い。
千切れた程度の傷なら断面をつけるだけの簡単な作業、あっという間に元に戻せる。
人狼が如何に優れた生き物であれ、その体が単純に肉と骨で出来ているなら決定打になる。
「凄い術式だ。これは火薬……違うな、匂いがしない。『水流操作』を使ってたみたいだから、それかな?」
『地形操作』で作った囲いを引っこめると、未だ炎が燻っている中、陽炎を裂いて焼け焦げた黒い狼が現れ、笑っていた。
「あれを、耐えたのですか……」
シェリー君が厳しい顔をする。
全身大火傷、飛び散った石で体のあちこちに穴が開き、右腕に至っては千切れかけている。
自分の、無意識的にブレーキをかけているとはいえ本気でやったにもかかわらず、それを無傷ではないとはいえ耐えて涼しい顔をされては動揺する。
「よく見たまえ。」
焦りで焦点がブレていた双眸を真っ直ぐにする。
よく見ろ、そう、あの人狼崩れは耐えたんじゃない。
一部炭化し、一目で解る重症の火傷が小さくなっていく。
毛皮が火傷を侵食している様にも見えるそれは今、火傷を完全に食い潰した。
穴も内側から血が流れ出すかと思いきやそれを作り出した爆破の破片が吐き出され、内側からせり出した肉が穴を完全に塞ぐ。
千切れかけた腕は左腕で持ち上げるようにして断面を合わせて押し付ける。あぁ、そんな方法で外傷が治れば医者の半分は商売あがったりだ。この人狼もどきが人類の半分なら医者は半分が廃業してるな、もう完全についた、断面すら解らない。
「これは……」
悪趣味極まりない演出の様になっているが、その本質をシェリー君は知っている。というか、今しがた見せた術式の行き着いた先がこれだ。
『反罪術式』
酷似している。細部は違っているものの、ルーツは同じで結果は近しい。
「素晴らしい肉体でしょう。これが人狼の持つ類稀なる天賦の肉体ですよ。」
嘘は吐いていない。だが大嘘だ。
そう考えた理由は、書庫にあった『医学全書 人狼版』にそんな珍しい生態について記載が無かったというだけではない。
魔法があるとはいえ、どこの世界に瀕死の重傷を自然治癒で治す生き物がいるというのだ?この治癒力と優れた肉体と姿を偽れる能力があればそれだけで人間は廃滅に追い込まれている。それが無い以上、ここにいるのは異常個体と考えるのが自然だ。
何より、私は陽炎の中、揺らぐ光景の中に見た。
頭に負った、シルエットさえ僅かに歪んで見える程の損傷、頭の中から妙な影が伸び、それを直していたところを。
異常個体は異常個体でも、これは後天的に弄られた手合いの個体だな。
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