獣の中に化物無く、人の中に化物有。
暴力的な牙がある、鋭利な爪がある、しなやかで強靭な筋肉がある、鋭敏な五感がある。
暴力的な牙はない、鋭利な爪もない、しなやかで強靭な筋肉は有っても僅か、簡単に騙し放題の五感がある。
これが獣と人の違いだ。
だから、人は真っ向から獣には勝てない。
脂肪が多く美味しく、その割に鈍く捕まえやすい、都合の良い餌。
だから人は知恵を磨いて獣に抗ってきた。
人にとっての知恵は獣にとっての牙と爪、筋肉と五感だ。
であるなら、もし獣のような爪と牙、そして強靭な筋肉と鋭敏な五感を持ちながら、人の知恵を操る生き物が存在したらどんな生き物だろうか?
「ははは、久しぶりですね、こうやって己を使うのは。」
速く柔軟な動き。
直線的な動きはそこにない。流動的で素早い中にも相手を混乱させる緩急と騙す噓が仕込んである。
そして距離を詰めると…………爪
身を反らして躱す。今の今までシェリー君の頸動脈があった場所で、空を切る音が響く。
「厄介な獣だ。」
肉体は獣だ。
相手の目には殺意一つ無い。
だが同時に、急所を切り裂く動きに躊躇が無い。
読み辛く、純粋に速い。
だが、やられっぱなしではいられない。
「ごきげんよう。そして、ごきげんよう。」
『地形操作』・『強度強化』
やっと口を開いたと相手が注目した瞬間、動きと動きの間の隙を突き、眉一つ動かさずに首と太股に急造の土塊製のナイフを躊躇い無く突き刺す。
「おっと残念、もう少しお話ししたいのでそれはもう少し待っていただきましょう。」
ナイフの切っ先が動脈寸前、体毛と魔法の二重の障壁で弾かれる。
「にしても、随分なご挨拶ですね。嫌われたものです。」
弾かれるナイフ、反動で少女の腕は吹き飛び隙を晒す。
『気流操作』
と、思っていたら、次の瞬間にはその隙の動きが次の動きの起点になる。
『強度強化』で押し固められていたナイフが抑圧から解放されて元の土塊に戻り、塵となって風に乗り襲い掛かる。
「おっと、これは……」
目を瞑りながらも余裕の言動。流石にここまでやられると。腹立たしくなる振る舞いだな。
『気流操作』・『水流操作』・『犯罪術式C.D.E.』
視覚を潰した所で本格的に仕留めに行く気だ。
『犯罪術式C.D.E.』
術式の効果は『物質の分解』。人間も人狼も詰まるところは物質、つまり大概の連中がこれ一つで、遺言を言う前に舌から声帯までバラバラにされる。
とはいえ今回シェリー君はこれを直接使わない。
人狼の構造に詳しくない状態で肝心要な場所をバラバラにして都合良く作り変えるなんて真似はそうそう簡単に出来るものではないからだ。
ただし、単純な破壊と修復なら話は別だ。
『犯罪術式C.D.E.』
術式の効果は『物質の分解』。大概の物質をバラバラに出来る。だが、本質はそこではあるが、そこではない。
物質への緻密な干渉。ありふれたものから別のものを取り出せるということ。
ありふれた、人体に不可欠な水であっても、バラバラにすればあら不思議、水素と酸素というあまりにも危険な組み合わせの出来上がり。
『地形操作』・『着火』
土の壁が水素と酸素を充満させた空間を区切り、火が入った瞬間爆発した。
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