応酬の中の自己紹介
「…………」
H.T.を刀剣にして突き刺す。
「フローヴ=ナヌン、一応商人、ということになっています。
駆け出しの頃は、装飾屋の屋根裏部屋に住まわせて貰いながら装飾屋の売り子と弟子をやって、手が空いた時はパン屋とレストランの手伝いをして残飯を貰って凌いでいました。
そうこうしている内に、器用で覚えが良い、客からの評判が良いということで認めてもらい、装飾屋の商品作りをさせてもらえることになって、技術を教わり、パン屋とレストランでは盗みを働く悪者を捕まえて、ズルをしてちょろまかしていた業者を排除して、考えたレシピを採用してもらって、そこから装飾屋の主人が引退して私が装飾屋を継ぎ、繁盛させて、パン屋とレストランの経営が傾いていたので装飾屋として稼いだお金で買い上げて、そうして安定した稼ぎを獲得してから徐々に徐々にそれらを大きくしていきました。」
突く、斬り上げる、振り下ろす、横に薙ぎ払う、刀剣を鞭に変えて叩き付ける、締め上げる。
それらが全て回避された。こちらの動きが稚拙な訳ではない。現にクソガキはさっきからこちらに羨望の目を向けている。
魔力切れを起こしている訳でもない。あの大馬の疾走の甲斐あって道中ほとんど消耗は無かった。
これは純粋に、戦い慣れした人間の動きを自然にしている上に、速い。
だが、これは修羅場を幾度も幾度も潜り抜けた歴戦の猛者の、反射に類する動きではない。
相手の動きを見て、それに対して最適な対応を瞬時に考えて返している動き。
本来なら考えた分遅れる一手を運動神経で一手先に行き相殺。
頭脳は人で身体能力は獣という特性を十全に生かした動き方といえばそれまでだが、戦い慣れしていない状態でシェリー君のこの動きに対応している以上、単なる賊や間抜けではない。
ちなみに、相手が受け身に回って喋っているからこれで済んでいるが、逆になると面倒なことになる。
「お名前くらいは、教えていただけませんか?」
「…………」
「つれませんね、シェリー=モリアーティーさん。」
「ッ!」
『身体強化』・『地形操作』
シェリー君が咄嗟に魔法で後ろに退がる。
今までシェリー君の立っていた場所を鋭利な爪が切り裂いていた。
「アールブルー学園は最高峰の教育機関という話は聞いていましたが、よもやこれを避けられるほどとは……最近変わった学長先生の教育の賜物でしょうか?それとも、あなたが元々持っていた天賦の才でしょうか?」
先程までそこにいたバトラーもどきはいなかった。
人を欺く文字通りの化けの皮を剥がし、爪と牙を持った人の形の獣がそこにはいた。
「お話、聞きたいですね。」
笑みを浮かべる様は人。だがその行動は獣だった。




