激怒苛烈は名乗る前に
経験の浅さ故のことだった。
人狼を相手にした経験は極めて僅か。
ここに来る前、戦闘と移動で消耗していた。
故にやることは一つ、『速攻』であった。
『気流操作』・『火球』
火球周囲の気体の濃度を調整し、温度を上げる。
全身を焼く炎はそもそも用意できない、そもそもいらない。
必要なのは触れただけでウェルダンステーキにする高温。致命傷を与える殺傷力。
『水流操作』・『地形操作』
水だけならば効果的ではない。顔を捉えて口と鼻を塞げば良いが、手足に当たるだけなら大した威力にはならない。
だから不純物を入れる。
当たれば毛皮を裂き、肉を抉り体内に入り込み、残り続ける不純物が。
『身体強化』・『強度強化』・『地形操作』・『気流操作』
もっと強く、もっと速く、もっと堅牢に。
直線的な動きを見せる。
相手がその動きに対応する瞬間に風が僅かに軌道をずらし、加速させる。
後手に回った相手が追い付こうとしたところで文字通り足下から切り崩し、打つ手を奪う。
そこからは相手の機会を奪う戦い。
進もうとする足を奪い、退こうとする足を奪う。
殴りかかる腕を払い、はね除けようとする手を払う。
相手は人狼。持っている情報は僅かで、しかもそれは紙の上の平面的なものだけ。
侮りが、慢心が、油断が、不要な慈愛が、致命的な状況に繋がる。
とはいえ…………
『H.T.』・『火球』
殴打して今まさに倒れる寸前のバトラー3の全身をH.T.で締め上げ、その内部で火球を弾けさせる。
熱は逃げ場所を失い、全身を焼く。
人狼の塩釜焼のお味や如何に?おっと、まだまだ調理は終わっていないようだ。
『H.T.』・『火球』・『身体強化』
H.T.の一端を掴み、人狼の塩釜焼を叩き付ける。勿論、その間も火球は連続で弾け続ける。
『人狼』という未知の要素に対する念入りな対策?確かに、この行動に対してそんな理由付けは出来なくはない。
だがそれ以上に……だ。
「最後!」
『H.T.』・『火球』・『身体強化』
火球が弾け、中身がH.T.の拘束から外れる。投げた拍子に独楽の様に回転しながら爆ぜる。
その光景を生み出した当人の目の奥には炎が燃えていた。
「立ちなさい。立てないというのなら、立てるようにして差し上げましょう。
貴方の非道を慈愛の心で許せるほど私は優しくありませんよ。」
憤怒に支配されている……ように見えるがそうでもない。
一手で詰みの『犯罪術式』や『反罪術式』を使っていないのだから。
「やれやれ、自己紹介も未だなのですがね。斬新な自己紹介もあったものです。」
おっと、人狼とはかくも頑丈なものなのかな?いや、そんなことはない。
「こちらからも自己紹介を。私の名前はフローヴ=ナヌン。以後お見知りおきを。」
「…………」
名乗る気すら無い。
名前の由来は 『wolf human』を逆さに。しかし、この男は人としても狼としても何かが欠けているので『wolf』ではなく『volf』、『human』ではなく『nunan』になります。




