家庭教師がまず一人目を狩る
バラバラになった馬車が散らばり、馬と御者、そして誘拐犯が前へと吹き飛び転がっていく。
シェリー君はといえば、二人を抱えて見事着地。二人を介抱していた。
「ケガは⁉」
人質を助けた側が一番錯乱していた。
外傷、血液無し。
心拍は乱れているが、クソガキは打撲の痕跡や嘔吐の跡も無し。
オドメイドの方は呆けている。これだけ揺られて未だ寝ぼけているのが怠惰なメイドなら通常通りだが、勤勉な部類のメイドがこの有様。異常事態、毒だな。
「ボクはありません。けどカテナの様子がおかしいです!」
「治療します。」
『C.D.E.』を使って毒を分解する。解析の結果大した毒ではない。足止め用といった具合だ。で、クソガキはそれの影響を受けていない、と。
その理由は明らかだな。
「『強度強化』と『身体強化』ですか……」
弱々しくはあるが、それはクソガキの四肢を覆っていた。
服毒、毒ガスに対しては無力だが、毒針の類ならこれで十分防げる。
クソガキは
「頑張りました。先生、頑張りました……。」
半分はうわ言。だが、目ははっきり前を見ていた。
「よく頑張りました、モンテル君、貴方の勝ちです。」
勝者には称賛を。これがクソガキに今出来る最大限だ。
「や、った。」
クソガキが拳を突き上げた。
「これで勝ちだとか、アンタが攫った連中は、痛てて……随分とめでてぇんだな。勝負はこっからだろうが。」
道の向こうからやって来る影が二つ。
その内の一つはゴードン家執事のバトラーの顔に似て非なるものだった。
そして今話していたのはもう一人。御者の格好をしている。馬上からは見えなかったが、御者席にいた奴だな。それなりの手練れだ。
「追跡者はたった一人。そいつの頭割って、そっちに走ってった馬奪って、そいつらを引き摺ってけば万事めでたし。
契約外のことだ、当然追加料金は頂くが、それでどうだ、依頼主様?」
こちらを値踏みするように見て、物騒な提案をする。
「そうですね、あくまで依頼は『馬車での人質の運搬』でしたね。この事態は私も予想していなかった。こちらの手落ちです。
追加料金は弾むので排除をお願いしてもよろしいですか?」
「承った依頼主様。」
バトラー風の男は穏やかな表情。もう一人の傭兵は戦意満々でこちらに向かおうとしていた。
だが、それを許すほどシェリー君は優しくない。
既にクソガキとオドメイドを攫われて心の奥底は修羅の様相。
「静かに。」
冷ややかに一言。
同時に『地形操作』+『気流操作』で石の弾丸を射出し、傭兵の眉間に撃ち込む。
視認性は最悪。魔法も防御も許さない速度だった。
貫通はしていないが、モロに喰らった。
「…………野郎!」
喰らったが怯んだだけ。目の奥に怒りを滾らせこちらに向かってくる。
『地形操作』
シェリー君は『怒りはこちらの方が深い』と言わんばかりに地面から交差するように二本の槍を作り出し、傭兵の頸動脈を狙う。
「容赦無しかよ!」
傭兵が直前で体を反らして回避する。交差する槍はそのまま空を突く。
しかし、そんな動き読んでいたとばかりに背中から伸ばしていた三本目が体を反らした傭兵の後頭部に直撃。
「うぐ……」
怯んで体を前に。ちょうど交差する槍の間に首がかかる様な格好になる。
『地形操作』
顎を下から抉る様に四本目が突き上げ。男は観念して意識を手放した。
「おぉ……」
バトラー風……一応あれはバトラー3になるのか。
奴はこの状況下、シェリー君に敵意を向けられながら、それを意に介さずシェリー君を興味深々に観察していた。
「モンテル君、カテナさんのことは任せました。彼は私に任せて下さい。」
「はい!」
クソガキを一瞥。クソガキはその一瞥に応えるように頷いた。
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