人狼バトル1
馬車の轍を遡り、クソガキを乗せた馬車の痕跡に辿り着くのは容易であった。
だが、問題はそこから起きた。
馬車をある程度追跡したところで、轍が二手に分かれた。
ご丁寧に乗り換え時の足跡は綺麗に消されている。あるいは、乗り換えをしなかったか……。
更に、両馬車の轍の深さに差異はない。荷物の重量からの推理も無意味と。
「さて、どちらかな?」
「………………………………。」
立ち尽くす。
否、立ち止まり考えている。
少なくともここで誘拐犯は囮と少なからずやり取りを行っている。
証拠を完全に消し去るなんて真似は出来ない。
故に、明確な答えが、正解の道に繋がるものがここにはある。
さぁ、考えよう。
そして考えよう、思惑は一つではない。
「沈黙も退屈ですし、お話は如何でしょうか?」
笑顔だ。これが誘拐じゃなかったら、静か過ぎて気まずくなった奴にしか見えない。
「………………なんの話を?」
これが誘拐じゃなかったら。
「警戒なさらずに、そこまで建設的な話はいたしません。
ただ、私は貴方という個人に興味があるのです。
特に、つい先日まではゴードン家のご子息だった貴方が、『若手のホープ』や『新たな神童』と呼ばれるに至った敬意なんかは気になります。
今までは単に手を抜いていたのか、それとも何か変革の切っ掛けがあったのか……。
少なくとも、確実に貴方を連れ出す時にああいったやり方を取らざるを得なかった理由の一つに、貴方の評価が高まったことがあります。」
蛇に締め上げられた気分になる。やられたことはないけど、冒険小説でそういうシーンはあった。
ヘビは嫌いじゃないけど、冒険小説に出てくるあの嫌な感じの奴は嫌いだ。
「手を抜いてた訳じゃない。ただ、バカにされたままじゃ許せない。だから闘った。それだけだ。」
「なるほど、彼女の名誉を守るために立ち上がったという訳ですか。
素晴らしいですね。義憤とは違う、単純な仕返しとも違う、『決闘』という形でそれを成したのは実に人間的でありながら紳士的だ。美しい。」
「そりゃあ、ありがとう。」
別に伏せてた訳じゃないけど、全部調べてる。だから、解ってたからカテナを攫ったのかよ……。
クソがよ。
今どれだけやったって、コイツには勝てない。
だから、今出来るのはカテナと自分の安全を出来るだけ守ること。
話を長引かせて、ボロを出さないようにして、考えさせないようにして、先生にあれを見つけてもらう時間を稼ぐこと。
それが今回の勝負の勝ちの条件だ。
だから、嬉しそうに話に食い付いちゃダメだ。
自然に、渋々、答えるんだ。
「まったくもって素晴らしい。そして手強い。」
そう言って目の前の男はポケットからあるものを取り出した。
「言う事を聞くフリして、こんなものを残しているのだから。」
泥だらけの縄が出てきた。
しまった、バレた!




