踊り踊らされ囮疲れて
H.T.が帯びた『C.D.E.』が馬車の骨組みだけを分解し、その内にあるものを暴き出す。
それは人質二人と誘拐犯……ではなく、真っ黒な塊だった。
到底人ではない。死体でもない。
「囮?」
ハッとして空白の時間が生まれた。
何をやっているのやら……『囮』だと気付いたら、次はそれが『罠』だと警戒すべきだろうに。
黒い塊が内側から膨張し、弾け、閃光を放ち、バラバラに散っていく。
熱と衝撃波、そして内側から飛び出す金属片。
『大外れ』
『地形操作』
爆発の熱と衝撃波、そして金属片を阻む。
凌ぎ切った。御者と馬車を牽いていた馬を含めて、だ。
『お人好しでエネルギーの無駄遣いをした』と私が咎めると思ったかね?
いいや、今回に関しては、無駄も有るがそれなりの意味有る行動だと評価しよう。何故なら……
「あなたにあんなものを運ばせたのは誰ですか⁉」
「知らない人です。俺の代わりにこの先の町の広場まで行ってくれって。金は弾むって言われた。相手にバレると面倒だから顔を隠して行けって……。」
嘘は無い。だからこそ面倒だ。
コイツからこれ以上情報を絞り出す事は出来ない。振出しという程ではないが、消耗して、無駄足だった。
「その人と出会ったのはどこで?」
「…………あっち。」
吹っ飛んだ馬車がつけた轍を示す。別の道を行ったな……。
「ありがとうございます。後でモラン商会という場所に行って貴方に何があったかを説明してください。きっと、助けてくれると思いますよ。」
「ありがとうございます、本当に、ありがとうございます。あなたは命の恩人です。……名前、名前は?」
その時、シェリー君はすでに大馬の上だった。
「大したことはしていません。淑女であれば、これはやって当然のことですよ。」
その言葉を残して、当の本人は既にまた等速直線運動へと向かっていた。
その様を見て、不運にも囮にされて死ぬところだった男は両手を組んで祈った。
大馬に乗って、飛ぶ様に去っていくその背姿と飛んでいく木の葉が重なって、勇ましくも凛々しい天使か、はたまた女神に見えたから。
「どうする気かね?」
「先ずは、あの方があの荷物を渡された場所へ、戻ります。そこから痕跡を見つけて、改めて追跡して、お二人を救い出します。」
先刻人助けをしていたとは思えない、鋭く余裕の無い表情をしていた。
「ブルルラララアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
咆哮と共に轍を遡る大馬。体が引き剥がされそうになりながら、耐えて進む。
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