大馬と少女
『アレクサンドロホース』
別名として『大馬』や『巨馬』、『蹂躙馬』とも呼ばれる。
どんな生き物かといえば、文字通り巨大な馬だ。
普通の馬を大きくして太くして持久力と速度を倍増させた生き物と言えば概ね正解。
草食、性格は温厚、人に懐き、人を乗せることを好む。
言うことを聞かせ、乗りこなせれば馬の完全上位互換。逃亡する誘拐犯に追い付くなんて造作もない。
と、いうことでシェリー君が選んだのは…………
「ブアアアアアア!」
耳元で銅鑼でも鳴らされたようだ。
扉を開けると同時にシェリー君は頭を下げる。
それに対して目の前の特大馬は睨み付けてきた。
『草食、性格は温厚、人に懐き、人を乗せることを好む。』
この個体だけ見ればその説明を書いた輩はとんでもない阿呆か猛獣の巣食うジャングル育ちだと確信せざるを得ない。
荒い鼻息に大きな歯、こちらを睨み付けて、今にも頭を喰い千切りそうな形相。そしてその体躯と歯の大きさを見れば、それが不可能だとは思わない。
通常の大馬と比べても特大サイズ。通常サイズの大馬が普通の馬に見える程だ。
これに乗れるなら、確かに追跡するのは容易だ。
当然それは『これに乗れるなら』という前提ありきだがね。
ちなみに私は犬猫語の話者ではない。
大馬に言葉があって、それが馬語の方言だったとしても、馬語が解らないので残念ながら、だ。
「グブルルルルルルルルルル……」
馬に言葉があったとて、果たしてこれは言葉をなしているのかは甚だ疑問だが、ね。
「力を貸してください。お願いします。」
それに対してシェリー君は頭を下げた。今まさに自分の頭が噛み潰されそうなこの状況下で、だ。
『馬に対して敬意を払う』なんていう、場合によっては滑稽にも見えるその行為は果たして何の意味があるのか?
「私の教え子達が誘拐されました。私を『先生』と呼んで慕ってくれる素敵な方々です。
こんなことは初めてで、私は、課題とは別でとても心躍っていました。私の知っている事柄全てを伝えたいと、全力で応えたいと、思いました。
それなのにこの有様……これは私の失態です。
誘拐犯の居場所はある程度特定出来ました。
一刻も早く助けに行きたいのです。けれど、私の足ではどう足掻いても届きません、追いつけません。
それでも、どうしても助けたいのです。どうか、その足を貸してください。
私を助けてください。」
泣きそうな顔をしていた。
俺様は寛大な王だ。大きく、力強く、賢い王だ。
矮小な小娘が跪き、更に矮小になろうとも、関係無い。
このまま騒々しさに耳を塞ぎ、眠ることも出来よう。
だが、俺様は王だ。
跪いていたシェリー君の体が馬の鼻面に突き上げられ、宙に浮かぶ。
不意を突かれ、体は簡単に宙を舞う。
そうして、落ちていく。大馬の背へと。
「ブルラァアアアアアアアアア!」
嘶き、咆哮が響き渡る。
俺様は王だと言わんばかりに。
俺様は相手が何であれ、怪我を治した恩は忘れないと言わんばかりに。
人間を鼻面だけで背中まで飛ばす馬力、いや馬鹿力。
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