本物を覆い隠すなら偽物で
「さぁ突っ走りな!矢より弾丸より速く!速く!速く!」
荷物はゴードン邸に。乗せるべき者だけ乗せて突っ走る。
目的地はこの道。この道沿いに攫われた子が居ると信じて走る。
「見逃したらその目ん玉引きずり出すからね!」
御者席で風と横向きの重力に圧し潰されそうになりながら歯を食いしばり吠える。
「わかってるよぉ!」
「その代わり、少しでもトロく走ったら後で死ぬほど恨み言いますんで、覚悟して下せえ!」
「言ってな!」
モラン商会の最速の運び屋達は走る。
自分達の命の恩人、大切な人の大切な教え子を助ける為に死力を尽くす。
たとえ、大切な人が自分達を見ていなくとも。
共に居なくとも。
出発前のこと。
「二手に分かれる⁉」
「はい。リスクはありますが、その方が良いかと。」
「何言ってるんだよぉ。」
「全員で突撃した方が良いに決まってまさぁ。それに、他の道なんて無かったでしょう?」
三人から反対の声が投げかけられる。
そりゃぁそうだ。
執事は本件で使えない。
屋敷に一人信頼出来る戦力ということでコックを置く。
となると、人質二人を助ける為に動かせるのはここの4人。
4人総出でも人が足りない。それなのにシェリー君は単独行動を希望しているのだから。
「皆さんの出した答えは確かに正しいと思います。追手が無ければ安全に逃げられるルートでしょう。
しかし、相手は異端者とされ、悪意に曝され、それでも生き延びた人狼。
そして今回、貴族の屋敷を襲撃し、誘拐までしています。
皆さんの情報は信じています。確実だと思います。だからこそ、その確実な情報で得られる道が一つだけということが引っ掛かります。」
「じゃぁ何かい?逃げてる奴が走ってるかもしれない場所がもう一つあるってのかい?」
「はい。見えているからこそ真っ先に除外して見えなくなる。ここです。」
広げられた地図の一点を指す。
それは、「2」が言っていた集合場所へと続く道だ。
「そこは確かに、走りやすいし数時間あれば色んな町とか村とかに行けるし、途中隠れられる場所も一杯あるけどよぉ。」
「話を聞いた限りではその場所は、教え子ちゃんの偽者に教えた『偽の集合場所』だったんですよね。
そこを本命にしたら偽の場所を掴ませる意味が無くなっちまうんじゃないんですかい?」
言うことはもっともではある。
「偽者であることが露見するのは、本来ならもっと後のはずだったのです。
人質を乗せているのが馬車だとして、偽者だと露見したあのバトラー様が走って最短距離で逃げてここまで走ったとしても……到底追いつけません。違いますか?」
「確かに、そう言われたら、確かに……そうだね……」
「この辺の道、少し曲がってたり、木があったりして、その、人狼さんが目が良くっても……」
「そこそこ距離を取れたら、見通せずに偽の場所として十分機能しまさぁ……」
三人とも納得した。




