人狼身中の虫
馬車が止まった。
「これをつけて下さい。」
真っ黒な細長い布が二本、渡される。目隠しをしろってことだ。
カテナの様子がおかしい。いつもなら『自分が』と言って率先して調べるくらいはするはずだ。目を見ても虚ろで、頭が眠ってるのが解る。
やっぱり逃げるのは難しそうだ。
やっぱり闘ってもどうにもならない。
じゃあ、このまま諦めて大人しく先生を待つのが正解。
いや、それも違う。今、ここで自分に出来る事が一つだけあった。
信じて待ちながら、コイツに一発食らわせられるかもしれない方法があった。
「速やかに付けていただけますか?こちらも困ってしまいますので。」
目の前の奴はニコニコしている。腹が立つけど、仕方ない。
「少し待ってほしい。ほら、カテナもこれをつけて。」
「はい、モンテル様。しょうしょう、おまち下さい。」
ゆっくりとした動きで目を覆い隠す。
それを確認した後でこっちもしっかりと目隠しをした。
「では、お手を拝借。」
「ん。」
紳士ぶって振舞ってる手を乱暴に取って。
「カテナ、手を。」
「はい、わかりましたぁ。」
カテナの手は優しく取って、そのまま馬車の外に出る。
地面は舗装されてない。
何か特徴的な音が聞こえる訳でもない。
人の声も聞こえない。
目隠しは厚い布で、全然見えない。緩めようかとも思ったけど、それじゃ直ぐに気付かれる。
やるなら気付かれないように。
「うわっ!」
カテナの手をすり抜けてわざと派手に転ぶ。
思わず右手が前に出るけど、目隠しがあって手が前に出なくてそのまま地面に倒れ込む。
「っ痛……」
「モンテル様、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。心配いらない。」
カテナがこの状態で良かった。
「おや、これは失礼。再度お手を拝借。」
手を掴まれる。不満だから思いっきり握ってやった。堪えてはないみたいだ。
「…………」
後は信じて大人しく従うだけだ。
「さ、こちらの馬車へ。先程より少し狭いですがご容赦を。」
手を引かれて二人とも馬車のソファに座らされる。
「あぁ、少々お待ちください。」
バタンと扉が閉まる音と鍵まで掛けられる音が聞こえた。
暫くして
「お待たせしました。では、参りましょう。」
目隠しが取られる。またあのニコニコした顔がそこにはあった。
「さあ、行って下さい!」
前の御者に大きく声をかけると、そのまま馬車は進んでいった。
こっちでやれることはやった。
あとは先生に任せるしかない。
だからもう、後はその時が来るのをじっと待って、その時が来たら素早く動けるようにしておこう。
不安はある。
でも心配はしていない。
先生ならどうにかしてここまでやって来てくれる。




