悪党ではない
廊下に出て、外へと向かう。
「随分と優しい手口だ。」
「……何が、でしょう?」
「最初は怖がらせようと演出していた。それ自体は中々だった。
途中から維持が困難になったからと背後に立つようにしたのも、欠点を補う工夫として評価しよう。
だが、それでも声が震えていた。口調も穏やかになって、挙句に最後は救済措置まで用意して渡した。
とても『脅迫』や『恫喝』のやり口ではないな。どちらかと言えばこれは、『人助け』や『救済』と呼ばれるものだ。
『裏切り者の人狼が改心して、こちら側に情報を流して協力した。』という形を君は作った。
当然、あの人狼は裏切り者の誹りを免れない。罰を免れることは無い。
だが、協力したという事実があれば当然、情状酌量の余地は生まれる。
それをどう活かすか、それはこちらの知った事ではないが、0を1にはした。」
「この程度、1にすらなりませんよ。」
「だが0ではない。そもそもこんな面倒を引き起こした側。我々は被害者で連中は加害者。
0どころか-でも良いくらいなのだから。」
「脅迫されていたという事実は情状酌量の余地があります。それに、彼は直接手を下していません。それなら十分、許される資格はあります。」
「ククク、ははは……」
「何かおかしなことが?」
少しだけ怪訝な顔をする。
「許される『資格』ね。
許すというのは許せる許せないの『感情』であり、講習や試験を受けて渡される『資格』ではないのだよ。
教え子を誘拐され、本来許せない立場にある君がわざわざ感情を排する考え方をして、情状酌量という結論を出した。……それは『合理性』を作っている証拠だ。
本来許すべきではない立場の己が『許すべき』と言う……己に言わせるための理由をね。」
その答えは沈黙だった。
一般的に、許しの心なんてものは清く正しく、正に美徳と呼べるものの類いだ。
しかし、未だ事態は変わらず。クソガキとオドメイドは最悪の筋書きから脱した訳ではない。
家庭教師として許す訳にはいかない。
この矛盾を終わらせるために、許す理由のためにわざわざ私直伝の脅迫・恫喝・洗脳技術を使った。
「人を逆らわぬ人形にするための技術を、あろうことか人狼を人道に戻すために使うとはね。
それで自分は相手を卑劣な物言いで追い詰めた悪党気取り。罪悪で自傷的になっていると。
随分とぬるい『悪役』だな。
やれやれ、これだけ散々な目に遭って、ロクでもない有象無象を相手にして、悪党が未だ何たるかを理解していないとは、嘆かわしいことこの上ない。
君はどう足掻いたって……これ以上は私からは言わないでおこう。」
「モリアーティー先生!」
後ろから声がかかった。
声の主は、1の方のバトラーだな。
「ありがとうございました!」
感情的な大声、喉が割れる様な耳障りな音。
だが、そのお辞儀は敬意に満ちたとても美しいものだった。
君は悪党ではない。
リアクション、ブックマーク、評価とありがとうございます。
おかげで『[日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕 - 連載中 202 位』になっていました。
この前、『大台までの最後の一歩を踏み出した云々』という話をしていたのですが、スピード速くないですか?皆様私に超甘くないですか?大丈夫ですか?いえ、ありがとうございますではあるのですが!
とりあえず落ち着くために宇宙聖杯戦争に行って参ります。




