人狼兄弟の近昔話4
獰猛な狼の爪と牙。
それを巧妙に操る人間の狡智。
お坊っちゃんはそれに気付いていません。
「躾のなってない駄犬ですね。」
間に入ったのは老婆でした。
頑丈な鎧に身を包まずに上等な黒の燕尾服に身を包み、堅牢な盾を持たずに無手で阻もうとしています。
老婆の体を貫きあわや犠牲者が二人に……と思った次の瞬間。
主の絶体絶命の危機であったにも関わらず、淡々とした表情のまま人狼を再度地面に叩き付けたのです。
「が…………」
先程の暴徒達の私刑なんて生温いと思わせるような強烈な一撃。痛みに悶絶してまともに声さえ出せません。
「坊っちゃんの気まぐれで生きてることを忘れるとは……愚かしいことこの上ない。」
痛みの中、手足に懸命に力を込めますが、捻り上げられた手も足蹴にされた足もびくともしません。身を捻ってなんとか逃げようとしますが微動だにしません。
「鋭い狼の爪と牙も、人間の小狡い知性も無い半端者。
棺桶に両足突っ込んで後は蓋をして埋めるだけの、こんな老婆にさえ良い様にされるとは……。」
「グルルルルルル」
狼の様に唸りますが、状態は全く変わりません。
涼しい顔をした老婆が毛を逆立てている人狼を一方的に制圧したままです。
「バーヤ、そこまでにしてくれるかな?折角助けたのに病院送りや葬儀屋送りにされちゃたまらない。」
「ご心配なく、坊っちゃん。こんな軟弱者相手に手加減をし損ねるほど、このバーヤ、耄碌しちゃおりません。
当然、坊っちゃんがゴードン家次期当主を名乗ったことも、しっかりとこの耳で聞いて、覚えております。」
「あ、ははは。保証はショーマス=ゴードンとして対応したから大丈夫ということで……」
「当主様にはしっかりご報告いたします。」
「買収は……」
「急に遊びに出たいと言い出してお勉強をほっぽり出して来て、揉め事に首を突っ込んだのです、諦めて下さい。」
「……お父様を脅迫するネタ、未だあったかな……」
制圧された人狼を挟み言い合う二人。
「はぁ……して、これはどうしますか?ある程度痛めつけた後、遠くへ捨て置きますか?それとも坊っちゃんの見ていないところで私が縊りますか?」
人狼の耳がピクリと動きます。
自分をこうしていとも簡単に押さえ込める老婆なら、自分の首も鶏の首も同じように容易く捩じ切れるだろうと思ったからです。
「いや、とりあえず家に連れ帰って着る物を。あとバーヤ、僕の執事の件だけど、彼にしようと思う。だから教育をお願い。」
「かしこまりました。」
「は?何言って……」
坊っちゃんに言われた両者が真逆の反応をしました。そして一拍おいた後。
「……坊っちゃん?坊っちゃん今なんと?」
「あれ?耄碌してないんだろう?
ゴードン家次期当主、ショーマス=ゴードンの側に控えて雑事をこなし、家を回す『執事』を彼に任せようと思うんだ。だから前任者の君に教育を任せるって言ったんだよ。」
にこにこと笑いながら平然と無茶苦茶を言う彼の名はショーマス=ゴードン。
数十年後に名実ともにゴードン家の当主となる男でした。
投稿が遅れて申し訳ありません。毎日投稿出来てるといった矢先にこの様です。皆様は熱中症にならぬようにお気を付けください。
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