人狼兄弟の近昔話3
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その場にいる者全てが、暴徒と化そうとしています。いいえ、半ばもう成っています。
お坊ちゃんとシャンとした老婆の二人ぼっちでは最早どうにもならないでしょう。
人狼はそう思いました。
「静かに。」
次に、ご貴族のお坊ちゃんが何をしたのか?
黙って彼らを見て、そう言っただけです。
武器を持った暴徒を相手に、無手で穏やかに、しかしそこに確固たる意志を持って、啖呵を切ったのです。
相手は一瞬それに臆して、一歩退いたのです。
その一歩をお坊ちゃんは逃しません。
「貴方達は彼以外の人狼を見たことがあるのですか?」
「……無い。」
「見たことのない種の人々をなんの根拠もなく決め付け、憶測だけで殺すのですか?」
「人狼は人を騙し、人を喰らい、恐ろしいものだ。殺さないとこっちが殺られるんだよ。」
「最も人を騙し、最も人を喰らい、最も人を殺す生き物がいます。それは人間です。
人狼を見つけ次第殺すというのなら、それより人を害する『人間』を見つけ次第殺さなければならないことになります。貴方は人を殺すのですか?」
「いや、それは……同じ人間は……」
「人間も人狼も同じ人類です。それは何十年も前から研究で明らかになっていることです。
私と貴方は、姿顔形は違いますが、同じ人間です。それと同じです。
それとも、貴方と私は顔形が違う人間だから、生まれも違う人間だから、私達と殺し合いをしますか?」
穏やかで淡々としていますが、その一歩向こうには領民と貴族の殺し合いが待っています。
「だが盗みをした。その罰は受けさせないと……」
なんとか喰い下がろうとしますが、もうその話は済んでいます。
「盗みは警備官やゴードン家の管轄、貴方達のするべき仕事ではない。罰は私が下そう。
それでも納得せずに、これ以上の狼藉をするなら、ゴードン家次期当主として対応することになる。」
正論を叩き付け、挙げ句に権力をちらつかせました。
「それと、もし損失があるなら私に言って欲しい。
これも何かの縁だ、ショーマス=ゴードンの名に懸けて保証しよう。」
飴と鞭、典型的です。
おぉ!と後ろで歓声が上がりました。
それが契機とばかりにお坊っちゃんの方へと皆が傾いていきます。
あっという間に先程までの一触即発の空気は吹き飛んでいました。
こうして、人狼は人々に吊るされすに済みましたとさ。
めでたしめでたし。
と、終わりはしません。
「立てますか?」
「…………聖人ごっこか?」
人狼は、お坊っちゃんが差し伸べる手を忌々しげに顔を歪めて睨みます。
「いいや、打算だよ。夕食のローストビーフを食べる時に血の赤色を思い出したんじゃ食欲が無くなる。それに領地内の無秩序や無法、私刑なんかを放置しておくと、それは広がって悪化する。
だから止めたんだよ。」
そう、お坊っちゃんは人情云々では動いていませんでした。
利用するだけ利用して自分を使い捨てる今までの連中と同じだと思った人狼は……
「そうかよ。」
地面に転がった状態から素早く体勢を立て直し、目の前の優男の首を狙いました。
ゴードン家は多彩で多才でバラバラではありますが全員ファンキーで統一されています。
先代が当代を諫めようとすると大体昔のファンキーを持ち出されて大体論破されます。
先:『お前山を一個平らにするとはどういうことだ⁉』
当:『先代は川干上がらせたの忘れましたか?』
先:『………』




