人狼兄弟の近昔話2
地面に組み伏せられる中、人狼が耳と目を声の主に向けると、そこには身なりの良いお坊ちゃんと、頭を抱えて呆れた様子の、姿勢の良い老婆がいました。
「なんだお前!」
「おい止せ。」
「あれ、お貴族様じゃない?」
「誰だよあれ……」
「ゴードンのお坊ちゃんがなんでこんなところに……」
周囲からそんな声が聞こえてきます。
ゴードンなんて名前を彼は知りませんでしたが、貴族であることが解れば十分です。
それはロクなものではありませんでした。自分達と野山を駆ける狼を同列に扱い、魔法や矢を放って狩猟しに来る下種な奴等が大半だったからです。
「そこで、貴方達は何をなさっているのか、訊いても?」
貴族らしからぬ丁寧な口調でこちらに向かってくる。
「見ての通りだ、解らないか?」
「見て解らないから訊いているのです。」
「ッ……盗人の人狼をぶっこ……処分するところですよ。
やんごとなき方の服が血で汚れたら大変ですので、ここは私達にお任せを。」
人々が棘のある言い方で貴族を追い返そうとしますが、そうはいきません。
「『任せる』とは?
彼が盗人だというのなら、この領地治めるゴードン家の名の下に罰されるべき。一体誰が、ゴードン家の命で彼に沙汰を下すのですか?」
無邪気で世間知らずそうな顔をして進んでいく。だがその眼の奥には光があった。
それに従い続く老婆は呆れたような諦めた様な顔をして眼の奥は虚ろだった。
「盗人をとっ捕まえて罰を下すのにそんな大袈裟な……」
「父は皆に伝えているはずですよ。
犯罪を見つけたら警備官に伝えるように、と。
くれぐれも自分で解決しようとしないで、とも。
今の貴方達の行いは父の言葉に背いている様に見えるのですが、如何でしょう?」
気持ち悪いと思いました。
表情はニコニコ笑っているのに目は全く笑っていないその様は、人を化かして襲う直前の人狼の様でした。
「ソイツは人狼です。」
「見れば解ります。」
さっきまで熱狂状態だった暴徒達が静かになりました。
けれど冷静になった訳ではありません。武器を持つ手には相変わらず力が入ったまま、握りしめています。そこには生死の境目の気配がありました。
「人狼はさっさと殺さないといけません。」
「どういうことですか?」
「人狼は見つけたら殺すべきだってことです、お坊ちゃんは解んないでしょうが、俺達は自分の身は自分で守らねぇとならねんです。」
「この領地を治めるのはゴードン家です。ゴードン家は法の下、領地を治めると宣言しています。
そして、法において人狼であることは罪でも罰でもありません。」
「なるほどな……じゃぁこいつは殺すべきじゃないと……なるほど。」
「そういうことです。」
「綺麗事を言うな!」
緊張の糸が切れそうです。武器を掴む手に入る力がどうしようもなく強くなっています。
「人狼は殺せ!殺さんとならない!お前らお坊ちゃんの綺麗事に付き合ってられっかよ!」
限界だった。
ブックマークと評価ありがとうございます。
ちなみに本作を消す予定は無いので慌てて読まなくても大丈夫ですよ。




