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成長期の子ども

 馬に乗った人の形を模した針金細工が目の前にある。像と言っても良い。

 細い線を折り曲げ編んで、一本で構築されたとは信じさせてくれない、(たてがみ)までもが存在する精緻な出来栄え。

 そんな細工に大きな水の塊が近付く。

 精緻と言えど針金は針金、それは呆気なく水を通す。

 人と馬が全身で水を飲んでいるようにも見える奇妙な光景は、人馬が水を飲み干して終わる。

 凝視して針金の隙間から中を窺うと、針金の内に一回り小さな水の塊があるのが解る。


 ここからが問題だ。


 針金像の側面から水が出る。

 穴の空いた容器から漏れるのとは違う。

 汗を流すのとも違う。

 針金細工の輪郭が二重にぼやけるように、針金と同じ形の水の塊が中から出てきた。

 そこには波紋は無く、ゆっくりと、型から取り出すように、慎重に現れる。

 人馬から半分が出る。操っている当人は真剣そのもので息が僅かに上がる。

 それでも人馬に乱れはない。徐々に、徐々に、抜け出して、そうして針金の人馬の像とそれより一回り小さな水の人馬の像の二つが並んだ。

 枠があれば魔法の精緻なイメージの難易度は格段に下がる。コップの中の水と池の水、干渉する難易度は違ってくる。

 今、クソガキがやっている水流操作、あれは枠組みの定義が困難で苦戦しているのだ。

 今、シェリー君がやったのはそれの応用、高難易度版の練習だ。

 枠組みはあったが、それを敢えて使わずその内部で正確に一回り小さな枠を己で作り、それに沿うように水流を操作して今、やっている。

 『力の無さを技で補う』

 その考え方の体現。自分という矮小な小娘が出来る最大限。

 「……ここまでは、出来る様になりました。」

 額から汗を流し、大きく息を吐きながら人馬の水像をコップの中に戻す。

 家庭教師としての鍛錬、個としての鍛錬。それを両立して、確認し、考える。

 「もう直ぐ、モンテル君は水に魔力を流すその方法を見出すでしょう。

 問題はそこからです。

 コップの中の水に魔力を流し、枠組みある状態での操作は出来るようになったとして、その後です。」

 明鏡止水だったコップの中が渦巻き、コップの真上に台風が出来た様な奇妙な流れを生み出した。

 「私は魔力が少なく、彼は強大な魔力の持ち主です。

 ここから先、『水流操作』以外の魔法を習得する際の事も考えて使用する魔力を控えるという選択肢は取りたくありません。

 彼の魔力の制御能力を訓練するか、それともそれ以外の方法を考えるか……」

 清流の流れを変えるのは容易いが、大瀑布の流れを変えるのは困難。という話だ。

 教える時、これが一番難しい。

 自分には出来たが教え子には出来ないことがあり、その逆もある。

 自分の経験だけで語れない、片付けられないことが数多ある。

 だからやりがいがある。だから教える自分を見直す機会が出来る。だから気付き、成長する機会を得られる。


 コップの中が渦巻く。


 子どもの頃、背伸びしてやっと届いていたからと、少し大きくなっても背伸びをして取ろうとしてしまう。

 もう背伸びなんてしなくても届くのに、届かないと錯覚するからそうなる。心当たりはありませんか?


 ブクマとリアクションありがとうございます。最近頻繁にランクインのお知らせが届いてホクホクです。

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