ズルをする子ども
狼狩りが重なってクソガキから数日目を離した後、見て欲しいものがあると呼ばれた。
「………………」
コップの中の水が激しく渦巻く。
コップ自体は微動だにしていない。流れだけが激しく渦巻いている。
その中心の指は微動だにせず、その持ち主は険しい顔でコップを凝視する。
「………………………………」
それを敢えてポーカーフェイスで見守る。
音を立てず、息を殺して気配を消し、その成否を黙って見守る。
「………………」
激しさが最高潮になった瞬間、息を吸って勢い良く指先を引き抜き、突き上げる。
本来なら僅かに濡れた指先がそこにあるだけ。だが今回は違った。
渦を巻く水の塊が指先に刺さる様に、重力に逆らってそこにある。
最早コップの形から逸脱しているが、表面は波打ち不安定だが、それでも留まっている。
「でき……ました」
こちらに目を向けることはない。
集中を絶やさぬように、齧りつくように目の前に集中している。
「これをこのま、まあっ!」
コップの中にそれを戻そうとして、乱れた。
激しい水の流れを作り、それを外殻にして中にただの水を無理矢理押し込んでいる状況。
殻に穴が開けば当然中身は流れ出る。ヒビをなんとか埋めようと制御を緩めてしまったお陰で、それはもう堰を切ったように、だ。
吐き出されて地面が水浸し……にはならない。
「これだけの魔力を制御するのは素晴らしいと言えます。
しかし、このやり方では魔力の通っていない内部の水には干渉できませんよ。」
手を取る。
強く、しかし乱暴な魔力の流れに沿うように、覆うように、そうして正確な流れが螺旋を描き、内部の大きな流れを巻き込みながら、それを誘導する。
流れ出る水が、空中で止まる。
「流れを作って閉じ込める。
『流れ』というアプローチはとても良いです。的確です。
しかし、使い方が少し違います。」
最低限流れを制御することが出来るようになった。
「『水流操作』は文字通り水の流れを操り、望む形に作り変える魔法。
この魔法は流れを絶えず意識して、掌握して、その上で望む形へ。
全ての流れを一つに。全て自分の意のままに。
これは決して、殻を作って液体を閉じ込める様な魔法ではないのですよ。」
地面にぶちまけられるはずだった水が巻き戻っていく。
「ああ、やはり。魔力量の強さ故に制御が甘くなっていますね。
正確に言えば、『制御能力自体は高いのですが、魔力量についていけていない。』が正しいですね。
本来なら流れを一つにまとめ上げるはずのところを、力が大き過ぎて流れと流れの間に隙間が出来てしまい、空白の場所が生まれている。
それを内側に追いやる事で無理に制御を試みて、今の状態になった、と。」
クソガキが奥歯を噛みしめて感情と言葉を呑み込んだ。
怠慢だな。
遅くなりました。そして評価とブックマークありがとうございます。気長に、お待ち頂けると幸いです。




