相恵的な関係性
《少し前、ショーマス=ゴードンの書斎にて》
「『マナー講習の追加』ですか?それはそれは……是非お願いします。」
シェリー君の提案は呆気ない程簡単に通った、素通りと言ってもいい。
「…………良いのですか?」
クソガキの役に立つとはいえ急に、しかも自分ごときが教鞭を取るという無理矢理を通すためにあれこれ用意してあったシェリー君からすれば拍子抜けも良いところだ。
「勿論ですよ。貴女の指導の有用性は今までの行い全てを通し、『実績』という形で証明されています。そんな貴女からもたらされた有用な提案、それを止める理由が無い。
それに、最近は私の手が空いた時にモンテルから魔法の監督役を頼まれているので、そちらの進捗もある程度は聞いています。
『家庭教師』を頼んだのですから、魔法だけでなく貴女の知っていることを是非とも伝えていただきたい。
ああ、人手が必要なら私が許可したと言って手伝ってもらって構いませんよ。必要なものがあればそちらも遠慮無く。」
ここまで行くと拍子抜けを通り越し、呆気に到達、そして最後に『疑念』に到達する。
ショーマス=ゴードン、目の前の男はスバテラ村で出会った、最も付き合いのある男と言える。シェリー君が信頼を獲得する相手としては妥当だ。
むしろ鴉羽のチケットを躊躇い無く使ってドレスを進呈する婦人や印象最悪から掌返しで素直な教え子になるクソガキの方が異常……なのだが、思い切りが良過ぎる。
教える内容の追加だけならまだしも、何も聞かずに人手まで貸して必要なものを用意しようとするのは流石にやり過ぎと気付いた。
「…………良いのですか?」
「えぇ、そちらに思惑があることは知っています。それはあって当然です、思惑の無い人の行動というものはありませんからね。
けれど思惑そのものは悪いものではありません。それの本質を隠していようと、悪と認識していようと、互いに利があればそれを否定する理由も拒絶する理由もありません。
私の利益になるなら、思惑を知った上で策に乗ることは望むところです。
今回の様に息子の講習を追加して貰える上に、使用人の浪費を防ぐことが出来るのですから。」
笑っていた。そこに害意や悪意は無いが、この男もれっきとした青き血の当主様だというのが見て取れた。
まったくもって、切れる当主様は良い耳をお持ちのようだ。
「あぁ、しかしそれだと、対外的によろしくないですね。
では、私が貴女からの提案を受ける。その代価として少しだけ、手伝いをお願いします。」
「手伝い、ですか?」
「えぇ、バトラーが最近忙しくしている様なので、少し……話をするだけでも構わないので様子を見るのをお願いしたい。
勿論、新しい講習で忙しくなるのは承知しているので、『形だけ』で、お願いします。」
「……承知しました。」
「なるほど、マナー講座。それをコックに言うってことは、必要なのはテーブルマナーが試される料理、か。」
「最初は実際に食べる必要はありませんが、お願いすることがあるかも、しれません。
その時は……」
「任せな。」
ウインクで返した。
「成程、故にカテナを。是非、よろしくお願いします。
こちらの務めはお任せください。」
「いえ、約束は果たすのが私の『淑女』としての在り方ですので。遠慮無く言って下さい。
魔法の訓練が呆気無いほど順調で、手持無沙汰になりそうだったので。」
笑顔と礼で返した。
評価やブックマークを頂いてランクインのお知らせが高頻度で来るようになっています。ありがとうございます。ファンタジーのランキングは魔境も良いところなので本当に嬉しいです。




