4÷1=?
「ティー……リアーティー……モリアーティー、ミス=モリアーティー、起きて頂戴。」
遠くで聞こえる声。どこか聞き覚えのある声、けれど結局最後まで1度も聞いたことの無かった穏やかな声。
身体が揺れて、目を開ける。
ここは、アールブルー学園の新校舎ですね。
けれど、あれ、私は……。
「珍しいじゃない。貴女がそんな風に無防備になるなんて。今日は雨でも降るのかしらね?」
「………コション、様?」
ふくよかな四肢とゆったりとしたドレスを身に着けた、見覚えある顔、けれどもう二度と出会うことはないであろう顔が、そこにはあったのです。
けれど、私はその表情を、過去一度も見たことがありませんでした。何故なら……
「コション様?」
怪訝そうに眉を顰めて、不服だとばかりにこう否定したのです。
「『コション様』じゃないでしょ!『コション』と呼びなさい。
確かに、身分の上では私は貴女の上にいるのかもしれない。
けれどここはアールブルー学園で、私達は等しく所属する生徒、同級生よ。『様』呼びされる理由が無いわ。
もし、学園のルールに基づいてより位の高い者を『様』呼びするとしたら、成績優秀者で私に勉強を教えてる貴女が呼ばれるべきでしょ?『モリアーティー様』?」
声が、出ませんでした。
「さ、今日は部屋で勉強会でしょ。もう皆来てるんだから。
剣術や貴族の振る舞いあれこれは別として、勉強は貴女がいないと始まらないのよ。」
そう言って、柔らかく熱い手が私を掴んで……
「あら、モリアーティーじゃない。遅くってよ。」
「時間は無駄にしてはいけない。余ったら君には鍛錬に付き合ってもらうんだからね。」
「あなた」「勝手が」「過ぎない?」
「アンタ達、許可を出したのは私なんだからくれぐれもあの淑女先生に注意されるようなマネはしないようにね。」
そこには皆がいました。私がアールブルー学園で出会った人々が笑って、私の部屋に。
そう、もうあの学園には居ない筈の人達が皆居て、微笑みかけてきたのです。
目が醒めました。
素敵な夢だとは、思いました。けれどあぁ矢張り夢だったのだなと冷静に思う自分がそこにいました。
しかし、何かが違えばあれは夢ではなかったのかもしれません。
向き合い方も、違っていたのかもしれません。
けれど、そうはなりませんでした。
これは起き得なかった事象。
物語が動き始めた時には既に、この可能性は潰えていた。
微笑むシェリー君も、その微笑みを分かち合う友人の豚嬢も、他を認めて否定しないナクッテ嬢も、剣を教えて己を高めて鋭さを手にした剣嬢も、肉体の美を心の美として体現する脳筋教師も、チェンジリングという悪戯をする三つ子も…………いない。
だから、この虚構はここでおしまい。
『~だったら』や『~していれば』なんて仮定の話をしたところで、それは永劫手に入らない。
過ぎ去ったものはもう変えられないのだから。
だが、現在と未来は別だ。
幾らでも細工できる、干渉できる、介入できる。
予測の外からやってくる変数、未知の変数はある。
だが、それらを組み込んで数式に出来れば……幾らでも変えられる。
そういうものだ。
ブクマ、逆お気に入りユーザー様増加、ありがとうございます。
そして、エイプリルフール誤差一週間内なのでセーフということになります。




