人と人と人、そして小鳥の目
馬車は凄まじいスピードで駆ける。
しかも鉄製の頑強な檻付き馬車ときた。
人も獣も手出しはしない。
挽き肉になるか、運良くそうならなくても、『冷たい檻に放り込まれたい』なんて思いはしない。
そんな訳で、馬車は10分ほど順調に進んでいたのだが、10分でピタリと止まった。
故障か?問題発生か?
否、違う。
「さて、行って貰うよ小鳥達。」
赤毛の女、スカーリが号令をかけると同時に馬車のあちこちから灰色の翼が飛び立つ。
その動きは鳥のそれ。だが異様なほど速く、羽ばたきが静かであった。
見る者が目を凝らして見れば、辛うじてその身体に血が通っていないと解る技巧が凝らされた逸品。
戦闘力を削り、映像の送信能力と飛行性能とらしい動きに特化したそれらは自然に溶け込む人工の目だ。
「発明家先生は、本当に凄いお方でさぁ。」
くじで見張り番を引き受けることになったデカンは唸る。
発明家先生こと自称そこそこ天才、ジーニアス=インベンターが商会に来てから、客だけでなく商会の人間さえ、遥か先にあるはずの未来を現在に見た。
「また産業スパイが発明家先生の発明を狙ったって言ってたよぉ。ニタリが見つけてキリキちゃんが追っかけてあっという間に捕まったらしいけど。」
奇妙な、そして武骨なデザインのゴーグルをしながらパニンニがぼやく。
「物騒ったらありゃしない。いっそのことあたしらがソイツらを市中引き回しにでもしてやろうかね……」
同じデザインのゴーグルをして表情は解かり辛いが、スカーリが怒っているのは明白だった。
「あー、その件ならイタバッサさんが預かるって言ってやした。」
気まずそうに、そして僅かに申し訳なさそうに頭をポリポリ掻きながらデカンが補足した。
「前言撤回。尻の毛まで抜かれてその上で市中引き回しじゃ可哀そうだ。」
スカーリとて鬼ではない。むしろ情に厚い方だ。
まともに商人としての経験が無い愚連隊を商会として、しかも一流の商会として回しているあの男を敵に回してしまった相手の末路に、一抹の同情が無い訳ではない。
もしかしたら今頃馬車馬の様に働かされているかもしれないし、檻の中で臭い飯を食うことになっているかもしれない、やった以上やり返されても文句は言えない。だからそれを止める訳が無い。
だが、負けが濃厚な魔王との闘いが気の毒だというのもまた真理なのだ。
「……あ、あったよぉ。2号機が見てる大きめの木、爪の跡だよぉ。」
「お、どれどれ、確かにあったね。けど、これは後ろの奴らのだね。爪の形が一致したみたいだよ。」
快い音がゴーグルのスピーカーから流れる。
ゴーグルの中、飛び立った小鳥達の目が映す光景が額縁の様に切り取られて複数映し出される。
幾つもある目の一つは檻の中で眠る狼達へと向けられ、その爪の大きさや曲線を見て、額縁の中に映るそれと比べ、そしてそれらの関係を分析し、答えを出す。
探す必要は有るし、比較しろと命令する必要もある。
けれど、細やかな分析は3人がやっている訳ではない。
これを作った発明家の頭脳の片鱗、それを映した魔道具が行っているのだ。
「さて、探すよ。」
「解ったよぉ。」
「疲れたら言って下せぇ。いつでも代わりやす。」
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久々投稿だというのにありがとうございます。




