表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異種恋愛  作者: 悠凪
10/10

10

「結局、ハッピーエンドじゃなーい。あーぁ、やだやだ」

 リビングにハイネのからかう声が響く。

 それに顔を真っ赤にしたあずみ、しれっとお酒を飲むケイ、そしてニヤニヤ笑う浩輔がいる。

 週末のある日、あずみは浩輔とハイネを食事に招いた。先日のことで二人には迷惑をかけたからだ。

 ケイの料理とお酒を堪能しながらハイネは笑った。

「でも、あずみを泣かせてたら私が暴れてたと思うし、ハッピーエンドで良いんだよね」

 あずみの頭を撫でてハイネは優しく見つめる。あずみは何も言わずに笑ってハイネの手の感触を確かめた。

「でも良いんじゃないか?ケイなら晴香も安心するだろ」

 浩輔も二人の関係の変化に柔軟に対応してくれた。アンドロイドだろうとあずみが好きなら問題ないと、笑ってくれたのがあずみには嬉しかった。

「晴香…許してくれるかな」

 浩輔の言葉に、ケイがぼそりと呟いた。

「ケイ?」

 あずみたちの視線がケイに集まる。ケイは少しうつむいたまま言葉を続けた。

「だって、俺とあずみじゃ子供もできないし、俺はこのままで年も重ねることはできない。いつかあずみには似合わない俺になるだろうし…晴香はそれでも許してくれるかな」

 その言葉にハイネは少し考えた後、ニコッと笑った。

「そうねぇ。子供はさすがに無理ね。でも他はなんとかなるんじゃない?」

 ハイネの明るい声にあずみもケイもキョトンとした。そこに浩輔も話に加わる。

「体はなんとかなるぞ。外側作って、ケイの感情や記憶を移植すりゃいいんだから。あずみとケイの見た目が釣り合わなくなったら、俺が作ってやる。晴香の残したケイのデータもあるしな」

「そうそう、そのときに浩輔が死んでたら、私が作るわ。つまらない男に引っ掛かって苦労するよりケイの方が晴香も喜ぶわよ」

「なんで俺…死んでる設定になってるんだよ」

 浩輔のぼやきには全く触れないハイネが、ケイとあずみの顔を交互に見て、

「晴香の産んだあずみと晴香の作ったケイが、似合わない訳ないじゃない」

 と二人に向かって咲き誇る花のような笑顔を見せた。




 ハイネたちが散々騒いで帰った後。

 あずみがお風呂から上がりリビングに入ると、ケイはぼんやりとソファーに座っていた。

「ケイ?」

 呼ばれて振り返ったケイは、あずみの顔をみてふわっと笑った。

「こっちおいで」

 手招きされてあずみはそのままケイの隣に座る。ケイはあずみの肩にかかったタオルを手にして、まだ濡れているあずみの髪を拭いた。

「ちゃんと乾かさないと風邪ひくだろう」

「これくらいで風邪なんかひかないよ」

「ダメ。昔からあずみは風邪ひきやすいんだから」

「ほんと、ケイは過保護だね」

「こればっかりは治らない。晴香のプログラムでも俺の気持ちでも、あずみのこと心配するのは同じだから」

「そっか…」

 あずみは優しいケイの手に気持ちよさそうに目を閉じた。お風呂上りの上気した頬が癒されるように緩んでいく。

「ケイ」

「ん?」

 目を閉じたままあずみは言う。

「私、子供なんていらないよ。ケイがいたらそれでいい。私が年を取っておばあちゃんになってもケイがそばにいてくれたらそれでいいんだよ」

「あずみ…」

「だから、簡単に壊れたりしないで。ずっと一緒に…」

 あずみが言い終わらないうちに、ケイがあずみの唇を塞いでしまった。

 突然の、深い深いキスにあずみの意識が遠のきそうになってたまらずケイの腕を掴んだ。

「……っ!ケ、ケイ。なんなの?」

 真っ赤になったあずみを、ケイはクスクス笑って自分の膝の上にひょいっと抱き上げた。

「目を閉じてるあずみが悪い」

「それ、言いがかりじゃない?」

 ぷぅーっと頬を膨らませたあずみの頬に、ケイは小さいキスをする。

「そう?そんなことないと思うけど。でも、嬉しかったから」

「そうなの?」

「うん。おばあちゃんのあずみも可愛いだろうと思って」

「…意味分かんないんだけど」

「その時まで、俺がそばにいてもいいってことだろう?」

 膝の上に乗るあずみを見上げるケイの目が優しく微笑む。それにあずみも笑い返した。

「うん。ケイがいい。…ねえ、ケイ?」

「何?」

「最近、アズって呼ばないね」

 ずっと、普段はアズと呼ばれていたのが、最近はあずみと呼ばれてなんだか変な気分になる。ケイがあずみと呼んでいた時は、怒られる時だったり、真剣な話をする時だと決まっていたせいだ。

 ケイはあずみに聞かれてニヤッと笑った。

「区別」

「区別?」

「そう。『アズ』は晴香の娘で、俺の家族だけど、『あずみ』は俺だけのだから。晴香にだって邪魔させない」

 変なこだわりを見せるケイに、あずみは吹き出した。でもそれがとても嬉しい。

 いつまでも笑うあずみを、ケイは呆れたような、恥ずかしそうな顔で眺めて、それからまた甘いキスを落とした。





最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたなら幸せです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ