第3話:驚愕の会議ーー魔王の馬鹿発言
「——続きまして第四議題。人類領における新星、『勇者』の動向についてでございます」
参謀ルキエルの冷徹な声が、玉座の間に響いた。
彼女は淡々と手元の手帳を読み上げていく。
「先日、人類の小国にて『神のお告げ』を受けし若者が、勇者として旅立ちを果たした模様。周辺のスライムやコボルドを倒しながら、東へ向かって進行中とのことです」
「……くっくっ、わざわざ会議で取り上げるまでもない、取るに足らぬガキの戯言だな」
鼻で笑ったのは、12魔人筆頭のピピンだった。
彼は銀髪を優雅に撫でつけながら、薄笑いを浮かべて肩をすくめてみせる。
「放っておけば勝手にその辺の野生の魔物に食い殺されるか、せいぜい野垂れ死にするのが関の山だろう。関わる価値すら感じんよ」
「……勇者とは世界の理の寵児。侮るべきではない」
冷ややかな声が、ピピンの冷笑を切り裂いた。
12魔人序列2位——ククス=ヴァルヘムである。彼女はピピンを一切見ようともせず、ただ冷酷な瞳で言いはなつ。
「……ふん」
ククスの鋭い一閃に、ピピンは気に留めた様子もなく、傲慢にククスを見下すばかりであった。
(……おおっ!?)
そのやり取りを見ていた魔王は、玉座の上で内心膝を打っていた。
(お前、分かってるじゃん! 初日にルキエルに『勇者倒しに行く』って言ったら速攻で『だめです』って拒絶されて絶望してたんだけど、やっぱり育つ前に潰すのが正解よね! 常識人がいて良かった〜!)
同じ「危機感」を共有できる理解者を見つけたと思い込んだ魔王は、
安堵の笑みを浮かべそうになるのを押し殺し、ククスに向かってフランクに話しかけた。
「うんうん、ククス……さん?の言う通りだわ。じゃあさ、君がサクッとその勇者を倒しにいってよ。頼んだね」
(この人見るからに強そうだし、これで勇者をなんとかしてくるかもしんない!やったわ~
)
「………………」
ピキッ、と空間そのものが凍りつくような音がした。
玉座の間の空気が、一瞬で完全な「無」と化す。
静寂の後、会議に参加していた官僚魔人たちの一同から、波紋のように動揺が広がった。
「な……12魔人序列2位のククス様を……!?」
「たかがガキ相手に、わざわざ最高幹部を出陣させるだと……!?」
「まさか、魔王様は……人間のヒヨッコ相手に怯えておられるのか!?」
ざわめきと混乱が、ひそひそとしたどよめきとなって広間全体を包み込む。
つい先ほどまでピピンを気圧していたククス自身も、目を見開いたまま完全に言葉を失っていた。
進行役のルキエルは手にした手帳を握りつぶしそうなほど固まり、官僚魔人たちは血の気が引いた顔で一斉に魔王を凝視している。
(……え? なんで? 俺、なんか変なこと言った……?)
魔王は冷や汗を流しながら、困惑して首をかしげる。
静寂とざわめきを切り裂いたのは、先ほどまでやり込められていたピピンの、震えるような嘲笑だった。
「……く……くはっ……ハハハハハハ!」
ピピンは腹を抱えて笑い出した。その瞳には、隠しきれない歓喜と侮蔑が宿っている。
「失礼……あまりにも可笑しかったもので!
ククス殿、君が『侮るな』と警戒していた勇者とやらに、我が王はそこまで怯えておられるぞ!
12魔人序列2位である君をわざわざ出張らせねば夜も眠れぬほどにな!」
「……なっ……」
当のククスも驚きに目を開くばかりであった。




